「いい面構えになってきたじゃないか。」
「だがまだまだだ。」
「ふふ、またいつでも相手になるよ。」
そう言ってコートから出て行く3強の背中を見るのは何度目だろう?
今日は俺の誕生日だ。誕生日プレゼントととして部長との試合を要求してみたらあっさりOKをもらったものの、結果は6-0。
試合後部長は笑顔で「強くなったね、赤也」と言い手を差し出してきたが、俺はその手を払ってコートに座り込んだ。
くそ、くそ、くそ、くそ!!俺は3人のバケモノを倒してナンバー1にならなくちゃいけねーってのにまだこの様か。唇を強く噛んで強く握った拳をコートに振り下ろした。
「お疲れ。」
声と共に俺の頭にタオルがかけられた。乱暴にそれを剥ぎ取ると、いつの間にか俺の前に秋子が立っていた。
・・・今一番会いたくなかった奴だ。
「・・・何だよ、副部長なら向こうだぞ。」
「ふてくされるね、切原。」
「うるせぇ。」
つうか何しに来たんだよ、こいつ。
折角誕生日だってのに、今日ぐらいはかっこわるい姿こいつだけには見られたくなかったのによ・・・。
秋子はしゃがみこむと、タオルを俺の首にかけた。
「おしかったね。」
「・・・何が?」
「試合。」
「・・・見てたのかよ。」
「まぁね。どう、卒業までに倒せそう?」
「倒せそう、じゃなくて倒してやるよ!絶対に!」
「・・・・。」
俺がそう言うと秋子は楽しそうに笑った。というかニヤニヤしてだした。
「・・・何だよ。」
「いや、男子のそういうのって格好いいよなーって思ってさ。」
そう言って立ち上がる秋子を見つめながらタオルで汗を拭う。が、よく見るとそれは俺のタオルではなかった。真新しい濃い赤のスポーツタオル。
「このタオル、お前のか?」
「ううん、切原の。」
「はぁ?」
「正確には切原のものになる予定のもの。」
「何だそれ。」
「誕生日プレゼント、って事。」
秋子はそう言って俺のラケットを手にした。そしてグリップを俺に向ける。
くそ、部長に負けて悔しいはずなのにこいつのプレゼントのせいで悔しさより嬉しさの方が勝ってきたじゃねぇか。
俺はラケットを受け取ると立ち上がった。そしてラケットを背おうと俺の好きな色のタオルを握りしめた。
「まぁ、貰っといてやるよ。ありがとな。」
「切原はそういう所が可愛いくないよね。」
「うるせぇ。」
「まぁ、それが可愛いけどね。」
「は?」
「誕生日おめでとう、切原。」
そう言って笑顔で俺の背中を叩くと、秋子はそのまま歩き出した。
俺はタオルと交互に見てからその背中に声をかける。
「なぁ。」
「何?」
「・・・さっきの男子のそういうの中に、俺も入ってるか?」
立ち止まった秋子がくるりと振り返った。そしてニヤリと笑う。
「そりゃそうでしょ。」
その言葉に俺は大きく息を吐いた。あぁ、ちくしょう。すげぇ嬉しい。
にやける口元を隠すように俺も歩き出す。
「プレゼントはタオルだけかよ。コンビニ寄って何か奢れよ。」
「仕方がないなぁー。じゃ今コンビニおでんが70円均一だから、それね。」
「おでんかよ!そこはケーキ、もしくは肉まんぐらい奢れっての!」
とか言いつつおでんを何にするかを考えている辺り、俺も俺だ。
いつか3人のバケモノからも秋子からもナンバー1は俺だって思い知らせてやる。