あの後やってきた謙也にめっちゃ怒られた。



「テスト休みに過度な自主練やら走り込みやらすりゃそりゃ倒れるっちゅー話や!おまけに夢で変な悪魔に誘惑されて左腕が黒く蝕んでたやて!?んなの夢に決まっとるやろ!でもな、そりゃガントレットしてあないに包帯きっつくしとったら腕も青くなって痛なるわ、どアホ!!」



久々に本気で怒鳴られ驚いたが、涙目でそう言う謙也になんだか申し訳なくなった。
おまけに謙也にテスト終わるまでは安静にと自主練禁止令を出されてしまった。医者の息子が言うんやから、ドクターストップと同じや!と言われた時は流石の俺も声を上げて笑った。
あれからまたしばらく眠ったらあっと言う間に最終下校時間になっていた。まだ重い体をゆっくり起こすと、カーテンの向こうから水無月さんが現れた。



「まだ、帰ってなかったんか?」

「うん、白石君が心配だったから・・・。」

「・・・おおきに。」



彼女は俺の鞄を持っていて、それを足元に置くと近くにあったイスを引っ張ってきて俺が今だいるベッドの横に置いて座った。そして俺のおでこに手を伸ばす。少し冷たい手が心地よかった。



「熱はなさそうだね。」

「・・・・。」



そう言って離れた水無月さんの右手を左手で取った。小さくて柔らかい綺麗な手。俺の左手には相変わらず包帯が曲かれているが、黒く蝕んではいなかった。練習で作った細かい傷が付いたいつもの手やった。



「前も言うたけど、俺凡人やねん。」



水無月さんは俺の話を聞いて目を丸くしたが何も言わなかった。
俺は彼女の手を握ったままうつむく。目の奥が熱くなる。



「何をやるにしても人の何倍もやらなあかんねん。みんな俺の事羨ましい言うけど、ちゃうねん。みんなみたいに、特別な何かが、俺には、無いねん・・・。」

「白石君・・・。」

「俺は、俺が、みんな羨ましいねん・・・。俺も、俺も欲しい。俺だけの、特別な何か、欲しい・・・・。」



水無月さんの肩にもたれながら、胸に溜まった言葉を吐き出した。言葉にした途端に一気に涙が溢れ出して、シーツに落ちたそれがシミを作る。
力なく握っていた彼女の手を離したら、離れた水無月さんの手が俺の頭をぽんぽんと撫でた。



「・・・私知ってるよ。白石君の特別な何か。」



夢と同じ声で、あの夢と同じ言葉に水無月さんの肩から顔を上げると、柔らかな手が俺の頬に触れた。



「白石君、もう持ってるよ。特別な何か。」

「・・・・分からへんよ。」

「じゃあ気づいてないだけだよ。」



そう言って優しく微笑んだ水無月さんは、ゆっくり俺を抱きしめた。
温かなぬくもりはやっぱり夢と同じ。



「私は知ってるよ。白石君は影ですごい努力してるの。」

「それは俺が他のみんなより数倍やらな身につかんからで・・・。」

「でも身につけようとして努力してるからでしょう?それを続けるのは誰にでも出来る事じゃないよ。」

「・・・。」

「・・・私は知ってる。授業が自習になってもみんな遊んでる中ずっと復習やってる姿とか、1人残ってテニス練習してる姿とか、夜フラフラになりながら走ってる姿とか・・・・白石君が努力してる背中ずっと見てたから。」



温かい。
涙は止まるどころかいっそう溢れて出てくる。水無月さんの前ではかっこいい俺でいたかったのに、これじゃ台無しや。
俺はゆっくり彼女を抱きしめ返した。不思議と胸の苦しさは消えていた。変わりに甘い気持ちが胸を占める。



「・・・特別な何か、って言ってもえぇかな?」

「自信持ってもいいぐらいだよ!」

「ははっ!水無月さんに言われたら自信持って言えそうな気ぃしてきたわ。」



ほんまにそんな気がした。水無月さんが俺の姿をずっと見ていてくれていた事も嬉しかった。
俺の特別な何か、を自分で自信を持って言うんはまだ時間がかかりそうやけど。
ようやく止まった涙を拭うとゆっくり体を離す。そこには真っ赤な顔で涙を流す水無月さんがいた。驚く俺に彼女は笑顔を見せながら涙を拭った。



「ご、ごめんね。いきなり抱きついたりして・・・。」

「えぇて。嬉しかったから。」

「えっ!?」

「ほんまに・・・・ありがとう。」



俺はそう言うと水無月さんの涙を拭った。
驚いた表情の彼女だったが、やがてそんな俺の手を取るといつものように笑った。
 
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