左腕を引っ張られると、後は落ちていく感覚が襲ってきた。もがいて必死に手を伸ばすが、どこに手を伸ばしているんか分からなくなった。辺りは闇で俺はただただ落ちていく。
だんだんもがいているのが無駄に思えて落ちるのに身を委ねる事にした。



羨ましい。
みんな、俺以外のみんな羨ましかった。みんな俺にはない何かを持っとった。
謙也はスピード。
小春は笑い。
ユウジはものまね。
銀はパワー。
小石川は陰のサポート。
千歳は無我。
財前は冷静さ。
金ちゃんは無邪気さ。
みんな俺にないものやった。
羨ましいなぁ。俺は何ももってへん。




「夢は叶いましたか?」



あの声が聞こえる。悪魔の声だ。共鳴するみたいに聞こえるその声に俺はうまく動かせない口をなんとか開く。



「・・・いらん。」

「でも味わえたでしょう?誰もが羨むような、特別な何か。」

「でも俺は、いらん。」



特別な何かの代わりに得た左腕の痛み。黒く蝕む左手を伸ばしたら何だか涙が出てきた。涙の雫が宙に舞のを見ながらゆっくり目を閉じる。



痛い、苦しい、羨ましい、俺も、俺だって、欲しい。




「私知ってるよ。白石君の特別な何か。」




声がした。
あの声とは違う声だ。優しくて甘い、愛しい彼女の声。
目を開けたら落ちる感覚は消えていた。そして突如現れた扉。隙間から光が見える。ドアノブに手をかけようとしたが黒く蝕んだ左手の俺が触るにはなんだか急に気が引けた。すると今度は左手を引かれた。しかし今度は恐怖も何も感じなかった。引かれるままドアノブに触れる。途端に光が隙間から溢れ出してきて俺を飲み込んだ。
その眩しさに目を細めると、すこし向こうから淡い光の誰かがやってきた。そして優しく俺を抱きしめる。



「おかえり、白石君。」


光は暖かかった。まるで彼女の笑顔みたいだ。そう思ったらなんやまた涙が溢れてきて、俺はそれを抱きしめかえした。




++++




「・・・いし、しら、石、苦しい!」

「ん?」



ゆっくり目を開と俺の視界にぴょこぴょこ跳ねる赤毛が見えた。ゆっくり下に視線を向ければ涙目で青い顔をした金ちゃんがいた。



「・・・金ちゃん?」

「か、堪忍やで白石ぃ!わいまだ死にとうない!」



ようやくはっきりしてきた頭で見たら、俺が金ちゃんを抱きしめて寝ている、という不思議な光景だった。どうりで夢みたいに柔らかくないわけや。俺はゆっくり金ちゃんから腕を離すと、金ちゃんは素早く立ち上がって俺の顔を覗き込んだ。



「でも気がついたみたいでよかったわ!」

「ここ、どこ?」

「保健室のベッドに決まっとるやろ、白石倒れたんやから。」

「俺が?」

「せやで!謙也から聞いて飛んできたらめっちゃ顔色悪かったから、このまま目覚まさへんかったらどないしよ思て・・・。」



溜まった涙を裾で拭きながらそう言う金ちゃんの頭を右手で撫でてやった。そしたらいつもの金ちゃんに戻っていた。



「あ、謙也達に知らせてくるな!」

「あぁ、金ちゃん。そない走って行ったら危ないで!って・・・もういないわ。」



ベッドの薄いカーテンを突き抜けるように去って行った金ちゃん。
体が鉛のように重い。保健室のベッドなんて使うん始めてかもしれへん。綺麗な天井を眺めながらぼんやりそんな事を思った。
そうか俺は、倒れたんや。



「白石君。」



夢の続きのような声が聞こえて、声のした方に首だけ向ける。金ちゃんが出て行った揺れる薄いカーテンの間から水無月さんが現れた。夕日に照らされた水無月さんはさっきの夢に出てきたあの光の誰かのようだと思った。
 
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