あの夢を見てから何かが変わった気がする。
授業中当てられて適当に答えた答えが当たるし、抜き打ちテストも丁度復習したのが出るし、そして一番は・・・。



「白石、また告られたんやって?」



教室を移動中謙也にそう言われた。視線を窓の外から謙也に向けると、やたらキラキラした目で俺を見つめていた。



「4組の鈴木さんやろ?」

「何で知ってんねん。」

「噂で。しかも断ったんやって?鈴木さん可愛えぇのに。」



気づかれないようにため息をつくと、歩くスピードを速める。しかし浪速のスピードスターはそんな速度はお構いなしのようだった。



「試しに付き合ってみればえぇのに。」

「試しに付き合えるほど俺は器用やあらへん。」

「ふーん。その辺も聖書やと思っててんけどな。」

「アホか。」



唇を尖らせてブーブー言う謙也をよそに俺はまた窓の外に視線を向けた。


あの夢を見るようになってから告白される回数が増えた気がする。自惚れじゃなくてほんまの事やった。これがあの夢の中の悪魔がくれた力なんやったら、俺は・・・。



「白石君、謙也君。」



我にかえると向こうから水無月さんがやってきた。立ち止まると、先を歩いとった謙也の前で立ち止まっていつものように笑った。



「先生が風邪ひいて早退したらしくて、今日は教室で自習だって。」

「はぁ?ほんまか?」

「うん。」

「ならもうちょい早よう連絡くれればえぇのに、なぁ白石?」

「・・・せやな。じゃあ戻ろか。」

「謙也君達が伝えたの最初だから、戻りながら他のみんなにも伝えないと。」

「おぅ。」



左腕に鈍い痛みを感じた。左腕をさすりながら踵を返すとまた歩き出す。
後ろになった謙也と水無月さんは楽しそうに何かを話しはじめた。会話がまったく入ってこない。
仲えぇなぁ。謙也はええ奴やから誰とでもすぐに打ち解ける。水無月さんとだってそうやった。今は席も近いからよく話しているのを見かける。
仲えぇなぁ、羨ましい。
ぼんやりそう思いながら包帯が巻かれた左手を見れば、黒く蝕んでいる。



「そこで俺が言ってやってん、そこはツッコム所やろ!って!」

「あははは!」

「なぁ白石?お前もそう思ったやろ?」

「・・・・。」




目をこするが左手は黒く蝕んだままだった。途端にあの嫌な汗が全身に流れる。左手も左腕も動かなくなる。
クスクスと耳元であの声が聞こえる。




『あなたの願いは叶いましたか?』




「・・・いらん。」

「白石?」

「こないな力、いらん!俺は、俺は・・・・。」


目の前が真っ暗になる。クスクスと笑う声が耳の奥から響く。



俺はこないな力、いらん。



笑い声が聞こえたかと思うと、誰かに左腕を強く掴まれた感覚がした。

 
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