神様、どうして俺には何もないのでしょうか?
何をやるにも人より数倍一つの事をやらな身につかない。勉強も笑いも、テニスだって。
いつかの夢に出てきたのが悪魔で俺の願いを叶えると言うのなら何で俺は今でもこんなに苦しいんやろう。
夏は夜でもまだまだ暑い。体力強化のために夜に近所を走るようになったのはあの夢を見るようになってからな気がする。通気性がいいはずのTシャツは汗で体にまとわりついていて、あの夢を見た後のような嫌な汗ではないけれど心地いいものでもなかった。
走るスピードをゆっくり緩めながら立ち止まる。何キロ走ったんやろう。最初のうちはちゃんと距離を決めて走っていた気がするのに、今は頭が空っぽになるまで走っている気がする。
荒い呼吸を整えようと深く息を吐くが、苦しくて近くにあったベンチに座りこんだ。そしてぼんやり夜空を眺める。星どころか月さえ見えない。薄く雲が夜を包んでいる。
「白石、君!」
聞き慣れた声に視線を戻すと、そこには水無月さんがいた。ビニール袋片手に俺に近づく。
「水無月さん、どないしたん。こないな時間に。」
「それはこっちの台詞でもあるんだけど。」
「俺は走っとった。」
「朝、体調悪そうだったけど大丈夫なの?」
「あれは謙也が勝手に言ってただけや。大丈夫やなきゃ走ってへん。」
「なら、いいんだけど・・・・。」
俺の事心配してくれているのが嬉しくて首から下げたタオルで汗を拭いながら緩くなった口元を抑える。
水無月さんはビニール袋からスポーツドリンクのペットボトルを取り出すと俺に差し出した。
「これ、よかったら。」
「ええんか?」
「うん。」
受け取ったペットボトルはキンキンに冷えていて彼女のビニール袋には他に入っていないように見えた。
「水無月さんは、買い物?」
「え、あ、うん。買い忘れたものがあったから。」
そう言ってビニール袋からシャーペンの芯を取り出した。しかし当たりはとっくに暗くなっていて女の子が1人で歩くのは危ない。俺はペットボトルの蓋を開けてスポーツドリンクを一口あおると、顔にかかる髪をはらう。
「こんな時間に女の子1人やと危ないから、送ってくわ。」
「え、大丈夫だよ!白石君の邪魔しちゃ悪いし・・・。」
「俺ももう帰ろう思っててん。」
「でも、白石君の家反対方向だし・・・。」
「水無月さん家から帰るまでまた走るから大丈夫。それとも俺に送られるの嫌か?」
「そんな事はない、です。」
「ほな、送ってくわ。」
少しうつむいた水無月さんが黙って頷いた。水無月さんの家はここからそう遠くなかったはずだ。つかの間の2人きりを楽しまな。
「せや、勉強会いつにするか決めてなかったな。」
「そうだね。」
「いつがええ?」
「じゃあ、明後日の放課後は?」
「ええよ。図書室待ち合わせでいいか?」
「うん。」
明後日の放課後。忘れないように頭の中で繰り返す。早よ明後日になればえぇのに。
夜空を見ながらそう思った。
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