「白石って凄いよな。」
朝の自主練が終わって教室に行こうてしたらそんな声が聞こえてきた。
今週からテスト休みのため部活は休みやけど、俺は一人練習をした。
「期末の成績見たか?学年5位だったで。」
「テニス部の部長も二年生からやってるしな。」
「文武両道、おまけにあのルックス。羨ましいわ。」
「でも完璧すぎてなんやムカつかんか?」
「あー、それ分かるわ。」
「でも笑いのセンスはイマイチやん。」
「せやな、あのエクスタシーっちゅうんはないやろ!」
「あははは!」
陰口は陰で言わな意味ないねんで、ましてや本人の前でなんてありえへんわ。そう思いながらため息を一つ。
俺の願いは叶ったんだろうか?
謙也より足も速くないし、小春みたいに笑いのセンスもない。ユウジみたいにものまねもできなければ、小石川みたいにサポートに徹せるわけでもない。千歳みたいに無我使えるわけやないし、財前みたいにいつも冷静にいられるわけもない。そして金ちゃんみたいに無邪気でもいられない。
俺だけの特別な何かは、あいつらが言ってるようなものなのだろうか。
左腕がまたズキンと痛んだ。
「白石君!」
声と一緒に肩を叩かれた。我にかえるといつの間にか隣に水無月さんが。
「おはよう。」
「あぁ、おはよう。」
それに気づいたのかさっきまで話していたやつらの視線が一気に俺の方に向いた。俺はさも今来ました、というように装って歩き出す。
「よ、よぉ白石。」
「おはようさん。」
たどたどしくそう言ったやつらの横をいつもの顔で通り過ぎ、教室に入る。席に荷物を置くと、斜め前の席の水無月さんが口に手を当て小さく呟く。
「ごめんね、出過ぎた事しちゃって。」
「いやむしろ礼言わな。おおきに。」
「でも、その・・・。」
「別に気にしてへんよ。本当の事やし。」
あいつらが言っていたのは全部本当の事。言われなくても自分が一番よう分かっとる。
そう思いながら席についたら、無意識に握りしめていた左手の上にノートが置かれた。
「これ、昨日言った白石君のノート。」
「あ、俺も返さな。」
そう言って鞄から水無月さんのノートを取り出した。確かに同じデザインのノートだった。俺は自分のノートを受け取ると、水無月さんのノートを彼女に差し出す。
「数学のテスト前に気づいてよかったわ。」
「うん、私数学苦手だから・・・・。」
「そうなん?なら俺教えよか?」
「いいの?」
「おん。」
俺は鞄を机の横にかけると、ノートを机の中に閉まった。水無月さんも鞄を机の横にかけると、椅子に座った。
「俺英語苦手やねん、自分得意やろ?」
「そうなの?」
「せやから、二人で一緒に勉強した方がお互いのためになるやろうし。どう?」
「うん、いいよ。でも意外だな。」
「何が?」
「白石君にも苦手なものあるんだね。」
ズキン。
左腕が痛む。思わずその痛みに水無月さんから顔を背けて顔を歪める。
これは只の・・・。
「白石君?」
「何でもな、」
「おはよう、お二人さん!」
その時、俺達の元に謙也がやってきた。謙也は水無月さんの前の席だ。謙也は鞄を自分の席にどかっと置くと俺の前にやってきた。
「どないしたんや、白石。大丈夫か?」
「朝会っていきなりそれかいな。」
「あほ、顔色めっちゃ悪いで。」
「大丈夫や、大丈夫。さっきの自主練でちょっと疲れとるだけや。」
「お前、何もテスト前やで!?こんな時にまで朝練やらんでも・・・。」
「俺凡人やから、それぐらいやらなあかんねん。」
そう言って左腕をさする。そして謙也の向こうで心配そうに俺を見つめる水無月さんに笑いかけると、朝のチャイムが鳴った。
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