「あなたの願いは何ですか?」
夢の中で誰かがそう言った。
「願い?」
「そう、あなたの願い。あなたは・・・誰にもないような特別な何かが欲しいのでは?」
「特別な、何か。」
「彼みたいに足も速くなければ彼のように笑いのセンスもない。また彼のようにものまねも上手くなく、彼のようなパワーもない。さらに彼のように穏やかに見守る事も、彼のように無我に近づくこともできず、彼のように何事も冷静に見れない。そして彼のように無邪気にもなれない。」
それは優しい声だった。男性にも聞こえるし女性にも聞こえる。小さな子の声にも聞こえるし年老いた声にも聞こえる。
「私がそんなあなたに特別な何かを与えましょう。何も心配する事は何もありません。これはあなたが願った事なのですから。」
「俺の、願い?」
「あなたは特別な何かが欲しいのでしょう?」
輪郭ぼやけているのにその声の主がニヤリと笑った気がした。
背筋が寒くなったと思ったらあの声が耳元で聞こえる。
「私があなたの願いを叶えてあげましょう。」
そうして悪魔は俺の左腕を掴んだ。
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