「んで、これがこっちにくるから+が−になる。」

「あ、なるほど。」



放課後、約束通り俺は水無月さんと一緒に勉強会in図書室。部屋には俺と彼女しかいなくて、走らせるペンの音だけが響く。



「ありがとう。白石君教えるの上手だね。」

「そうか?でも人に教えると自分の勉強にもなる、て何かで見たわ。一石二鳥やな。」

「ふふ、そうかもしれないね。」



そう言って笑う水無月さんを見つめながら、手を止める。
あれ以来あの夢を見ることはなくなった。
ぎちぎちに巻いて若干青くなっとった左腕も徐々に治ってきた。(未だに自主練は謙也に止められとるけど)
あんなに悩んどった特別な何かも前ほど気にしなくなった気がする。今でもそりゃ欲しいとは思ってるけど、今俺が持ってるモノを完璧にしたいという気持ちの方が強なったように思う。
それもこれも、水無月さんのおかげや。



「なぁ、自分謙也と仲えぇよな。」

「うん、悪くはないよ。」

「席も近いし、最近よう話してんの見るから。羨ましいわ。」

「白石君とは最近席離れちゃったからね。」

「ほんま、寂しいわ。」


この前やった席替えで謙也とも水無月さんとも離れてしまった。別にクラスの他の奴と仲悪いわけやないけど、席近くなった謙也と水無月さんを授業中眺めて羨ましくなった。
水無月さんは俺のその言葉にこっちを見てから、少し視線を落とした。



「私も、寂しいよ。」

「ほんまに?」

「うん。」

「・・・・俺、な。」



あの夢見てる間に落としてきた何かも、戻って一つ一つ拾わなあかん。
悪魔の声は心地よくて魅力的な言葉だったけど、その声に惑わされてる間に俺はどれだけの何かを落としてきたんやろう。
持っていたシャーペンを置いて水無月さんの手に触れる。俺より小さくて柔らかくて温かい手。



「自分がこんなに欲張りやなんて知んかったわ。」

「欲張り?」

「おん、特別な何かも欲しいけど今もっと欲しいものがあるねん。」



早くなる鼓動が水無月さんに気づかれませんように。彼女の視線が俺に向いて、そう思いながら平然を装う。
握っていた手をそのまま持ち上げると、水無月さんの手を俺の頬にあてた。



「し、白石君・・・。」

「今更照れるん?こないだ水無月さんから抱きしめてくれたやんか。」

「それは、それであって・・・。」

「・・・なぁ。」



少し赤くなった水無月さんを見ながら、俺は言葉を絞り出した。
伝えたい事は沢山ある。でもそれが上手く言葉にならない。



「・・・欲しいよ、水無月さん、が。」



胸にあった言葉吐き出すようにそう言うと、彼女は大きな目をさらに丸くさせた。
かっこ悪い。告白するならもっと格好ええ台詞とかシチュエーションとかあったろうに。そう思ったがこれが今の俺の精一杯やった。情けないなぁ。
でもこれが俺や。



「・・・白石君は恥ずかしい事を平気で言うんだね。」

「・・・は?」



彼女の口から出てきた予想外の台詞に思わずぽかんとしてしまった。水無月さんはそんな俺の頬にある手で軽く頬を引っ張った。そして離してから柔らかく笑う。



「白石君と初めて話した時もそうだった。緊張してた私に『そんな緊張した表情じゃ可愛い顔が勿体ないで』って言って。」

「・・・俺そんな事言うたっけ?」

「うん、白石君は覚えてないかもしれないけどね。でも、私はその言葉で緊張がほぐれたんだ。」


水無月さんはそう言うともう片方の手も俺の頬に触れた。その瞳にはうっすら涙が見える。



「白石君の言葉で私何度も勇気づけられて、何度も嬉しくなるの。だから、今も・・・すごく嬉しい。」

「・・・・。」

「白石君私ね、白石君の事好きだよ。」



そう言った彼女は今まで見た中で一番優しくて可愛いくて綺麗やった。
俺は今度はそんな彼女の両手を握る。



「・・・ほんま情けないわ、俺。言いたい台詞全部言われてもうた。」

「えへへっ。」

「・・・ほんま水無月さんには適わんわ。」



俺はそう言うと彼女の両手にキスをした。途端にあたふたし始めた水無月さんの姿に思わず吹き出す。
小さくて柔らかくて温かい手。俺の両手にあの夢の間に落としてきたものが確かにあった。
その幸せを噛みしめるように握る手に力をこめた。
手に入れたこの種をゆっくり、できたら2人で育んでいかな。
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