泣きっぱなしの私に、天根君は呆れた表情一つ見せずに涙を拭いてくれた。
顔が熱い。きっと真っ赤になってるに違いない。
でも今は天根君が私と同じ想いでいてくれた事が何よりも嬉しかった。
ようやく少しずつ落ち着いてきたら、急に恥ずかしくなってきて絞り出すように声を出す。



「今、の・・・・・本当?」

「本当。」



そう言って優しく頷いた天根君のユニホームを掴むと、その胸に顔を押し付けた。
心臓の音と暖かさが心地よかった。



「わた、しも・・・・。」

「ん?」

「・・・私も、好きだよ・・・。」

「・・・・・・知ってた。」

「え!?」

「だから体育祭の後、坂本と東堂に怒られた。」



出てきた名前に驚き、顔だけを上にあげる。
絢ちゃんと、それに・・・・・東堂君も?
天根君はそんな私から視線だけを逸らした。



「ついでにサエさんにも。」

「さっ、佐伯先輩も?」

「・・・・ついさっき、『どうすればいいか、分かってるだろ?』って。」
「・・・・・・。」



佐伯先輩には私の気持ちも、彼の気持ちもお見通しだったみたいだ。
私が天根君から少し離れて涙を拭うと、天根君は足元に転がったあの赤い傘を拾い上げた。
そして自分と私に掛かるようにそれを差す。



「瀬名。」



天根君がまた私の名前を呼ぶ。名前を呼ばれるだけでも、胸がうるさく鳴るのが分かる。



「やっと小降りになった。」



天根君はそう言うと、優しく微笑んだ。
どうやらそれは私の涙の事を言っているようだった。私はその言葉にまた泣きたくなったが、今度は堪えることにした。私の雨はしょっぱいもじゃなくなっているのだから。
今度は私から彼の手を取ると、大きな手が優しく包んでくれた。
あぁ、やっぱり好きだ。大好きなんだ。




「言い忘れてた。」



私がようやく落ち着いた頃、天根君がそう言いだした。
天根君はずっと持っていた傘を私の手に握らせた。



「返す。」

「・・・え?これ、天根君のじゃ・・・。」

「お前のだ。結構前に公園で雨降ってて帰れない子に貸しただろ。」

「・・・・・・・。」



天根君にそう言われてようやく私は思い出した。
そうだ、そうだった。
公園で急な雨で帰れなくなってる子達に傘を渡したのだった。何で今まで忘れてたんだろう・・・?
半年前に天根君と会ってこの傘を渡された時にどうして気づかなかったんだろう、私・・・・・・。



「・・えっ、でも何で天根君が持ってたの?」

「丁度それを見てたんだ。それに、そいつら俺がテニス教えてる奴らだからな。」



あっ、あの場に天根君もいたんだ。という事はあの子達が噂に聞く“六角予備軍”と呼ばれる次のテニス部を担うかも知れない子達だったんだ・・・・。



「昇降口で見かけた時に、返せたと思ったんだけどな。」

「ごっ、ごめんなさい・・・・・。」

「いや、いい。」



そう言った天根君と視線がぶつかった。
反らすに反らせずにいると、傘を握る上から手を握られた。



「相合傘もできたからな。」



そう言って少し意地悪そうに笑った顔に、また顔が熱くなった。


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