あの後私は、胸の中にある言葉を絢ちゃんに話した。絢ちゃんは苦笑いしながらも「やっぱりね。」と小さく呟いた。そしてそのまま家に帰り、すぐに寝てしまった。
次の日の体育祭の片付けで、藤堂君と星野さんが付き合い始めた事を絢ちゃんから教えてもらった。よかった、と思いながらなるべく天根君に会わないように過ごした。
『あんた、どうするの?』
「何を?」
『だから、今度の練習試合。』
家に帰って絢ちゃんからの電話を受けながら部屋の机の上にあるカレンダーに目を移した。そこには赤で丸が付いている。
「あー、そうだった、ね・・・・。」
『まぁ、無理には誘わないけどさ。』
「うん、ごめんね。」
『いいって、それじゃ。』
「うん。」
電話を切ると、後ろのソファーに体を預けた。はぁ、と力なく息を吐いた。
体育祭の片付けの後、星野さんからもメールがあった。どうやら事情を絢ちゃんから聞いたらしく、私を心配してくれていた。
・・・・彼を避けるようになったと言ってもその想いが消える事はなく、むしろそれが日に日に増している事に気づいた。
あの距離を壊してしまったのは自分なのに、まだ彼を好きな自分が不思議でならなかった。
ソファーに置いてあるクッションを抱きしめると、大きくため息をついた。
「試合、見たかったな・・・・。」
カレンダーを見ながらそう呟く。
すると、ドアをノックする音がした。そしてガチャリとドアを開いたのは弟だった。
「・・・返事してないんだけど。」
「ノックはした。」
弟はそう言うと、つかつかと私の部屋に入ってきた。
弟は私よりも一つ下で、同じ中学校。サッカー部に所属している。(東堂君を尊敬しているらしい。)
弟は私の前に腰を下ろすと、パーカーのポケットに手を突っ込んだ。
「姉ちゃん、この前貸した折りたたみ傘返して。」
「えっ、返してなかったっけ?」
「ないから来たんだけど。」
弟はそう言うと机に肘を付いた。
私はいくつかの鞄の中を物色、その一つから青い傘を取り出した。
「ごめん、借りっぱなしだったね。」
「まぁ、別にいい。返してさえくれれば。ってか姉ちゃん傘持ってなかった?」
「持ってないよ。」
「嘘だ。」
「ほっ、本当だよ。」
「・・・・・そうだっけ?」
弟はそう言うと私から傘を受け取り、立ち上がった。そして傘と私を交互に見つめると、首をかしげた。
「でもさ。」
「何?」
「俺と一緒に買いにいかなかったか?折りたたみ傘。」
「え?」
「俺が青で、姉ちゃんが赤だって。色違いで買わなかった?」
「・・・・・・・。」
『お前・・・・覚えてないのか?』
天根君の声を、思い出した。
「まぁいいや、邪魔したー。」
弟はそう言うと私の部屋から出て行った。
私はただ、カレンダーの赤い丸を見つめた。
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