「俺はそう思ってない。」



天根君はもう一度小さくそう言うと一層顔を険しくさせた。
・・・・・そっか、そうだったんだ。



「・・・・俺は、」

「ごめんね。」

「・・・・は?」



天根君の言葉がぐるぐると頭の中を回る。
『そう思ってない。』
・・・・そう、私の思い違いだったんだ。
胸が痛い。前よりも鋭くなった痛みに涙がこぼれた。



「ごめんね。」

「おっ、おい、瀬名・・・。」

「なんか変な事言っちゃって・・・・、ごめんね。」



私はタオルで涙を拭うと立ち上がった。そして涙を堪えて笑顔を作った。
そんな私を見て天根君は少し驚いた表情をしている。
私は・・・・・私が勝手に勘違いしていただけだったんだ。きっと彼は優しいから、いろいろ手伝ってくれたりしてくれたんだろう。
それだけだったんだ。
私は始めから・・・・天根君の背中しか追いかけてなかったのだ。



「いろいろと手伝ってくれて、ありがとう。・・・嬉しかったよ。」



私はそう言うと急いで彼の前を離れた。
後ろで天根君の声がしたけど、まったく耳に入ってこなかった。・・・兎に角胸が、痛かった。




「雪!」



後ろからした声に振り返ると、そこには絢ちゃんがいた。



「ようやく見つけた!報告報告!星野さんと東堂ね・・・・って、どうしたの?」



絢ちゃんは途中で話を止めると、私の前に近づいてきた。
なんだか絢ちゃんの顔を見たらほっとしてまた涙が溢れてきた。



「・・・・・・言ったの?」



そう言う絢ちゃんは何でもお見通しのように思えた。
私はぶんぶんと首を横に振る。



「言わない、言わなかった、言え、ないよ・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「私、天根君の事・・・・・。」



胸の中に言葉がぐるぐると回っていて上手く言葉に出来ない。涙が止まらず絢ちゃんの顔がぼやけて見える。
そんな私を見てか、ため息をついた絢ちゃんが私の頭を撫でた。



「まぁ、事情は後で聞くから今は思いっきり泣いちゃえ。」



私は絢ちゃんのその言葉に頷くと、タオルに顔を押し付けて泣き続けた。

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