「はい、これで大丈夫。」
「ありがとう。」
天根君は私が貼った絆創膏をまじまじと見つめながらそう言った。
私が消毒液とガーゼを救急箱の中に戻すと、校庭の方から大きな歓声が聞こえた。次に拍手の音がまばらに聞こえてきた。
えっと、校庭だから、サッカーかな?
そんな事を考えながら天根君の方をちらっと見ると、そんな私よりも先に天根君は私の方を見つめていた。
私はすぐに視線を逸らした。早くなった心臓を抑える。
「・・・・この前。」
「この前?」
天根君が呟くようにそう言ったので、私はまた彼に向き直った。
彼は少し俯いて視線をそらしている。
「お前が倉庫に荷物運んでて、サエさんと一緒にいた時。」
「あぁ、あの時。」
「・・・・サエさんに。」
「ん?」
「サエさんに、何か言われなかったか?」
天根君はそう言うとちょっと眉間に皺を寄せた。私は瞬きを数回する。
「言われたけど・・・。」
「言われたのか!?」
「いっ、言われたけど、私がぶつかっちゃった事と私の名前の事話しただけだよ。」
「・・・・・。」
私がそう言うと天根君は大きくため息をついた。
確かにあの時佐伯先輩と話しはしたけどよく分からなかった、というのが本音だ。
すると校庭からピーと高いホイッスルの音が聞こえ、さっきよりも大きな歓声と拍手が上がった。どうやら試合が終わったらしい。
「試合、終わったみたいだね。」
「そうみたいだな。」
遠くの歓声と拍手の音をぼんやりと聞きながら、スポーツ大会ももうすぐ終わってしまうんだなと実感した。
「・・・・・・るな。」
「え?」
「もうすぐ、委員の仕事も終わるなって言ったんだ。」
天根君も同じ事を考えていたらしい。
私と同じように校庭の方を見つめる彼の横顔を見て寂しいと思ってしまった。
思えば、なんだか不思議な感じだった。
委員会が一緒になって、係りが一緒になって、最初は話す事もあまりなかったのに今はこうやって隣で話している。
・・・・また胸が痛くなった。
私が好き、と言葉にしたらこの距離もなくなってしまいそうだ。それが、怖い。
胸を手で抑えつけると、天根君が心配そうに私を覗き込んでいた。
「大丈夫か、瀬名?」
「うっ、うん。なんか・・・寂しいね。」
「・・・・・。」
「・・あっ、いや、その、寂しいっていうのは・・・。」
「・・・そうだな、俺も寂しい。」
天根君はそう言うと少し私の方を見た。そして少し目を細める。
「楽しかったな。」
そして笑った彼の顔を見て、私はなんだか少し泣きそうになった。
あぁ、やっぱり好きだ。好きなんだ。
私、天根君の事が好きだ。
私は俯くと、ハーフパンツの裾を握った。絢ちゃん、星野さん、私には伝える事はできないよ。
「うん、楽しかった。・・・あのね、天根君。」
「何だ?」
「・・・・スポーツ大会が終わっても、仲良くしてね。」
「・・・・・・・。」
私が呟くようにそう言うと天根君は目を丸くさせた。そして何度か口を動かすが言葉にはならないで視線を下げた。
「・・・・・それって、友達としてって意味か?」
「うん・・・・・・。」
・・・・嘘。
本当は好きだよ。でも言わない。言えない。この距離でいられるなら。
顔を上げると、天根君の真剣な表情とぶつかった。ただ私を見つめる表情が少し険しくなる。
「・・・・・・俺はそう思ってない。」
「・・・・え?」
胸の痛みが強くなった。
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