救護テントに着くと、そこには誰の姿もなかった。
ただ遠くから聞こえてくる声援や笛の音が聞こえてくるだけだった。
まぁ、そうだよね。体育館と校庭との間にあるんだから。
私は呼吸を整えるとパイプイスに腰掛けた。
そしてはー、と息を吐く。
・・・・・もしかして周りの人にばれてるのかな?私の気持ち・・・・?
火照った顔に手を当てると、私の前を数人の女子が通り過ぎていった。



「はぁー。」



私は大きく息を吐くと、手で火照った顔を扇いだ。



「お疲れサマンサタバサ。」



ふと上からそんな言葉と聞き覚えのあえる声がふってきた。
顔を上げれば、そこには天根君の姿が。
ドクンと心臓が音を立てた。



「天根君。あっ、お疲れ、さまです・・・・。」

「・・・・・・・。」


私が曖昧に言葉を返すと、彼は何も言わずに私の前にあったもう一つのパイプイスに腰掛けた。



「そうだ、天根君。試合は?」

「さっき終わった所。」

「・・・で、どうだった?」

「負けた。まぁ、東堂がいたから当たり前と言えば当たり前だがな。」

「でも、天根君も凄かったよ!」

「・・・見てたのか?」

「あっ、うん。ちょっとだけど・・・。」

「・・・・。」

「・・・・。」

「・・お前も残念だったな。」

「えっ?」

「試合。東堂から聞いた。」

「あぁ、うん。惨敗でした。」

「でも、瀬名も頑張ってた。」

「・・・見てたの?」

「あぁ、少しな。」

「・・・・・。」

「・・・・・。」



二人の間を沈黙と風だけが流れた。
私はそんな空気をどうにかしようと視線を動かせば、天根君の左腕に傷をみつけた。しかも血が出ている。



「あっ、天根君。」

「何だ?」

「左腕、肘の所、怪我してるよ。」

「腕?」



天根君はそう言うと自分の左腕の肘の辺りを見た。
彼はそれを見ても動揺することなく、淡々と「あぁ」と呟いた。



「本当だ。」

「本当だ、じゃないよ!」

「さっきの試合で転んだ時だな、多分。」

「いいから腕出して。消毒するよ。」

「いや、いい。これぐらい洗えば大丈夫だ。」

「洗っただけじゃだめだよ!ばい菌入っちゃうよ!」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」



またしても沈黙。
天根君と視線がぶつかったが、私はその視線に逸らさずに対抗する。
やがて天根君は観念したかのように視線をそらすと、小さくため息をついた。



「・・・・お前が相当頑固だって、忘れてた。」

「・・・・天根君もね。」



私がそう言うと天根君は左腕を私の前に差し出した。



「じゃぁ、お願いします。」

「はい、お願いされます。」



そう言った私に天根君は「ぷっ。」と声を出して笑った。
私はまた早くなった心臓を隠すように少し俯くと、救護箱からガーゼと消毒液を取り出した。






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