「送ってく。」
「え?」
「でも部室寄るからちょっと待ってろ。」
「えっ、あっ・・・・うん。」
なんやかんやで、天根君と一緒に帰る事になった。
結局天根君に小物が入った箱を倉庫まで運んでもらった。
何でも天根君は絢ちゃんに私の鞄を押し付けられたらしい。絢ちゃんにはまだ気づいた事を言ってはいないけれど、なんだかお見通しのような気がした。
天根君は部室に寄るという事だったので私もその後についていく。
六角男子テニス部の部室の話は聞いてはいたけど・・・・・。
「本当に海の家っぽい・・・・。」
前に絢ちゃんから「間違えて観光客が来ることもある」と聞いた事もあったけど、これなら間違えるのも無理ないような作りだ。
砂浜に座る私の直ぐ側には海が広がり、夕日に輝く海は今日も綺麗だった。
「悪い、待たせた。」
「ううん、全然大丈夫!」
肩にテニスバックを下げてやってきた天根君にそう言うと、彼は薄く微笑んだ。
「なんかごめんね、いろいろと・・・・。」
「いや・・・。」
天根君はそう言うと、私から少し離れて座った。
視線が私から広い海に向いた。
「そうだ。一応言っておく。」
「なっ、何?」
「今度あるんだ、試合。」
「テニスの?本当、いつ?」
「来週の日曜日。」
「そうなんだ・・・・・応援に行ってもいい?」
「あっ、あぁ。」
「・・・・楽しみだな。」
私は小さくそう言って少し俯いた。どうしよう、顔がにやける。
ちらりと天根君の見つめれば、一瞬目が合った。ドクンと心臓が波打つ。しかしまた直ぐ視線は海に戻る。
私も視線を海に向けると、なんだかゆっくりと時間が進むような気がした。
「あっ。」
「ん?」
ふと、私はそこで気がついた。鞄の中にずっと眠っていたあれを取り出す。
そう、あの時天根君に借りた赤い傘だ。
私は彼のほうに向き直るとその傘を差し出した。
「あの、これ、私ずっと借りっぱなしだった傘。」
「・・・・・・。」
「返すのが遅くなってごめんなさい。」
「・・・・・・。」
「・・・あっ、もしかして覚えてないかな?一年の時、雨で私が帰れなくって、それで天根君が貸してくれた傘。」
「それは覚えてる。そうじゃなくてお前・・・・覚えてないのか?」
「え?」
「・・・いや、悪かったな。」
天根君はそう言うと、その傘をゆっくりと受け取った。そしてしばらくそれをじっと見つめると鞄の中にしまった。
・・・・でもどうして謝るんだろう?
それに私、何か忘れてるのかな?
「・・・帰るか。」
「・・・うん。」
天根君はゆっくりと立ち上がると私に手を差し伸べてきた。
夕日に包まれる天根君を、綺麗だと思った。
私はまた早くなった心臓を隠すようにその手を掴んだ。
あぁ、やっぱり私は彼が好きなんだ。
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