「はい、これで最後。」
佐伯先輩はそう言うと持ってたホイッスルを箱の中に入れた。
気づいたら散らばっていた小物は全て箱の中に戻っていた。
「あっ、すみません。なんかやらせてしまったみたいで・・・・。」
「いいって、気にしないで。」
「あっ、サエさーん!!!」
佐伯先輩の言葉が終わらないうちに先輩の後ろから呼ぶ声と足音が聞こえてきた。
やがて佐伯先輩の後ろに男の子がやってきた。
「もぅ、探したよ。」
「どうした、剣太郎?」
佐伯先輩が“剣太郎”と呼ぶこの子が、絢ちゃんが言っていた一年生部長の葵剣太郎君か。
どうやら佐伯先輩を探していたみたいだ。
「おじぃが呼んで・・・・・あぁ!貴方は!」
「えっ、私?」
葵君は佐伯先輩から視線を私に向けると、私に近づく。
「瀬名雪さんですよね?」
「はい、そうですけど・・・・。」
「わぁ〜、本物だ〜。」
「えっと・・・。」
「あっ、僕は1年の・・・。」
「葵剣太郎君、だよね。一年生部長の。」
「わぁ!僕の事知ってるんですかぁ?」
「勿論。」
「好感触・・・・話しに聞くより数倍可愛い。」
「え、誰から?」
「それは、ダ」
葵君が楽しそうにニコニコとしながらそう言うと、佐伯先輩がそんな葵君の襟元を掴んだ。
そしてそのまま引っ張ると、葵君の口をそのまま覆う。
「こらこら、剣太郎。まだ本人が伝えてない事を先に言っちゃダメだろ。」
「んぐっ・・・サエさん苦しい!!!」
佐伯先輩は葵君の口から手をどけると、そのまま彼の肩に手を乗せる。
そして私にまた微笑みかける。
「瀬名さん、ぶつかった俺が言うのもなんだけどそれ一人で持つの大変でしょう?手伝ってもらったら?」
「えっ、誰にですか?」
「後ろにいる奴だったら、手伝ってくれると思うよ。」
佐伯先輩はそう言って首を少しかしげた。
後ろ?
私は佐伯先輩が言った後ろを振り返った。
そこには少し離れた所に天根君がいた。私が振り返ったのを確認すると、こっちまで歩いてきた。
「あっ、天根君!?」
「やぁダビデ。そういう事なんだけど。」
「・・・・うぃ。」
天根君はそう言うとさっきまで私が持っていた箱を軽々と持ち上げた。しかも片手でかかえている。
「どこまで運ぶんだ。」
「そっ、倉庫だけど・・・・。」
「分かった。」
彼はそう言うとそのまますたすたと歩き出してしまった。
私は慌てて佐伯先輩に目を向けると、「俺達気にしないで」と言って手を振った。
私は頭を下げると、急いで天根君の背中を追う。
「まっ、待って天根君!それ私が持つから。」
「大丈夫だ、これぐらい軽い。」
「そうじゃなくて、それ私が頼まれた仕事だし。」
「でもお前、これ持って何回か転びそうになってた。」
「うっ・・・な、何でそれを・・・・。」
「人混みの中何回か躓いてるの見かけた。」
「・・・・・・。」
みっ、見られていたのか・・・・。
確かにコレを運んでいる途中で数回躓いた。遅かれ早かれ佐伯先輩にぶつかっていなくても小物を転んでばら撒いていたかもしれない。
淡々とそう言いながら足を進める天根君。私は付いていくので精一杯だ。
「・・・・でもでも、天根君に持ってもらうのは違う気がする。だから私が持ちます!」
「・・・・・・お前本当に頑固だな。」
「・・・・天根君もね。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
天根君は立ち止まると私の顔をじっと見つめる。
私は途端に心臓の音がばくばくと音を立て始めたのが分かった。
「・・・分かった。」
「・・・うん、ありがとう。」
「じゃぁ。」
天根君はそう言うと持っていた鞄を私に渡した。その鞄についたキーホルダーに見覚えがある。
「・・・・あれ?これ、私の鞄に似てる。」
「正解。おまえの。」
「えっ、何で天根君が私の鞄を?」
「途中で坂本に渡された。」
「絢ちゃんに・・・・。」
「お前はそれ持って来い。」
「え??」
天根君はそう言うと、またすたすたと歩き出してしまった。
この展開は前とまったく同じものだ。
私はまたその背中に見惚れる。
前と違う所は、本当に私が彼を好きだと気づいた所だった。
私は鞄を持ち直すと、急いでその背中を追った。
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