天根君は私の髪に触れると、髪をゆるく一つにまとめた。
お花はホチキスじゃなく髪ゴムでくくられていて、彼はそれで私の髪を器用にくくった。



「ん、これでいい。」

「・・・・・・・。」

「この前の髪ゴムのお礼。」



彼はそう言って優しく微笑むと、髪に触れていた手を滑らせるように私の頭に置いた。
それに私の心臓がうるさく、鳴り出す。顔が熱い。周りの音が、止まる。



「瀬名?」

「・・・・・・・。」



・・・・どうしよう、私・・・。
前の天根君が心配したように私を覗き込む。私は少し俯いて彼の手から払うように離れると、立ち上がる。
天根君はそれを見て驚いたように目を丸くさせている。



「ごっ、ごめん、ちょっと・・・・・・。」

「どうした?気分でも悪いのか?」

「・・・・・わっ、私顔、洗ってくるね!!」

「おっ、おい!」



私はそう言うとそのまま部屋を飛び出した。




走って、走って、走って、そのまま目に留まった女子トイレに逃げ込んだ。
乱れた呼吸を整いながらよろよろと鏡に近づく。
見れば鏡の向こうの自分の顔は真っ赤だった。顔が熱い。心臓がうるさいくらい鳴っている。
私はそのまま近くの壁に背を預けるとそのまましゃがみこんだ。



「・・・・どうしよう。」



気づいてしまった。
自分がファンだから、という事でなく彼の事を好きな事に。
曖昧な気持ちじゃなくてはっきりと彼が、天根君が好きなんだという事に。
髪をゆっくり解くと、彼がさっき作ってくれた鮮やかなお花が。私はつぶれないように優しくそれを包むと抱きしめた。私の為に作ってくれた事が、嬉しかった。



「・・・・・変な奴って思われたよね・・・。」



私はゆっくり立ち上がると、水道の蛇口をひねり水に手を浸した。
・・・・本当に今更気づくなんて、遅すぎるなぁ。それと同時に星野さんが前に話していた言葉が頭をよぎった。



『ある時突然気づいちゃったんだ。「あっ、私この人のこと好きなんだな」って。』



彼女の言っていた通りだ。でも、彼女とは決定的に違う所がある。



『そうしたら、なんだかちょっと嬉しくなったんだ。』



・・・・・でも私は違った。
痛い。胸が痛い。苦しい。
本当は気持ちに気づきたくなかっただけかもしれない。
前よりも話も出来るようになった。一緒に帰ったりもした。
だから。だから、今のこの関係が崩れるのが、怖い。



「・・・はぁ。」



ため息は下校時刻を告げるチャイムの音に消えた。



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