教室に戻ると、私の机の前に絢ちゃんがいた。
今日は部活がない日なのか、制服姿。そして机に戻ってきた私に近づいてそう聞いた。
「で?」
「・・・・え?」
「え?じゃなくて、その後どうなったの?」
「どうって?」
「ダビデとよ!」
絢ちゃんはそう言うと私の前の席に腰掛けた。
そして私の机に肘をつくと、ため息をついた。
「その分だと、何にもない?」
「えっ、えっと・・・・・。」
「東堂とか星野さんとかに聞くけど、ダビデと一緒の組なんでしょ?」
「そっ、そこまで知ってるの!?」
「勿論!」
「・・・・・・。」
恐るべし、と言うか流石、というか・・・・。
私は机の横にかかる鞄を机の上に置くと、自分もイスに腰掛けた。
「・・・・・話は、したよ。」
「本当に!?で、どうだった?」
「どう、と言われても・・・・・。」
「部活以外の話はしたの?」
「えっと、犬の話・・・・とか・・・・。」
「・・・・・犬?」
「うん・・・・。」
私がそう言うと絢ちゃんは少し目を丸くさせると、やがてため息をついた。
そして頭をかくとその手を私の頭に置き、髪をぐちゃぐちゃにされる。
「本当にあんたは・・・・まぁ、それが雪の可愛い所でもあるんだけど・・・。」
「あっ、絢ちゃん?」
「まぁ、まだ当日までいろいろ仕事もあるんだろうし頑張るんだよ。」
「うっ、うん・・・・。」
絢ちゃんはそう言うといつものように笑った。
そして隣のクラスの子に呼ばれてそのまま教室を去っていった。
私はその後ろ姿を見送ると、立ち上がり教室の電気を消すととのまま廊下に出て歩き出した。
ここ数日で話せるようになって、いろいろと彼を知った。
でもやっぱり・・・・・ファンなんだよ。それだけなんだよ、多分。そのはず・・・・。
・・・前よりもそこら辺も曖昧にはなってきているのは事実だけれど。
昇降口に向かって歩きながらそう考えて息を吐いた。
そして横に流れてく教室をぼんやり眺める。
確かに前よりも天根君の姿に目がいくようにはなっていると思う。姿を見るとドキドキするのも増えている。
今だって彼の姿を見て、急にドキドキして・・・・・・・・・・って、あれ?
いっ、今!?
私が我に帰って立ち止まるとふと見た空き教室の中に天根君の姿があった。
私は急いで隠れ鞄を両手で抱えると、開いているドアをそっと覗き込んだ。
そこには天根君しかいなく、彼の前には今日届いたばかりのアーチがあった。天根君は腕を組んでそのアーチをとにらめっこしている。
なっ、何やってるんだろう?ダジャレの研究?
と、そこで私はようやく気が付いた。・・・・なんで私こそこそと隠れてるんだ?
私はくるっと教室側の壁に背中を付けた。
・・・・・別に女の子と一緒にいる所を見ちゃったわけでもないんだから、堂々と声とかかければいいんじゃないか?うん。
「何やってるんだ?」
すると突然上から降ってきたその言葉に思考回路が停止した。
ゆっくり顔を上に向ければ、ドアに手をかけて私を見下ろす天根君の姿があった。
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