そのまま家に帰ると、いつの間にかケータイにメールが届いていた。
差出人は弟から。どうやら部活の練習で帰りが少し遅くなるらしい。
私はその返事を打って送信すると、鞄を置いてラックに掛けてあるエプロンを付けた。
今は父親と私と弟の3人で暮している。(あと犬)
父親の仕事のせいもあってか、家事は当番制。ちなみに今日の夕食係は私だった。
買い物をしてこなかったので、冷蔵庫のあまりもので簡単な夕食を作った。
しかし今日は父親は返ってこない。おまけに弟の帰りが遅い。夕飯は弟が返ってきてからにしようと決めエプロンを外すと、窓際に豆くろの姿が見えた。
「よし、散歩行こうか豆くろ!」
「わん!」
「直ぐ着替えてくるからちょっと待っててね。」
私はガラス越しに豆くろにそう言うと足早に自分の部屋に行き、着替えた。
そして玄関に鍵をかけると、豆くろの元に向った。
豆くろは私の姿をみつけると尻尾を振り、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「おすわり。」
私が散歩用の綱を持ってそう言うと、豆くろは大人しくおすわりをした。その隙に私は鎖から散歩用の綱に帰ると豆くろの頭を撫でた。
「よし、行こうか。」
「わん!」
私は家を出ると、いつもの散歩コースを歩き始めた。豆くろの散歩コースは主に近所を回るだけだった。たまに弟と散歩に行くと海のほうまで行くみたいだが、私は行ってもせいぜい近所の公園までだった。
今日は弟が返ってくるまで時間もあるし、公園まで足を伸ばした。
夕方といってもまだ明るい公園だが、遊んでいる子供の姿はない。ぽつぽつと私のように散歩をする人たちだけだった。
「わんわんっ!!」
その時そんな私に豆くろの高い鳴き声が聞こえた。
見れば豆くろは私達が来た入り口の方を向いて鳴いているみたいだった。私も豆くろが向いている方を見ようと振り向いた瞬間、体が後ろに倒れた。
「わっ!!」
私はそのまま尻餅をつくと、私の目の前に豆くろとは違う犬の顔が二匹あった。
黒と白の二匹とも豆くろより大きい。ん、この二匹・・・・・。
「わん!」
「わんっ!」
「君達、もしかして黒羽先輩の所の・・・・・。」
「おい。」
「あっ、黒羽せんぱ・・・・・・。」
そう言って二匹の頭を撫でている私に上から声がかかった。二匹から視線を上に向ければ、そこにいたのは黒羽先輩じゃなかった。
先輩の代わりにそこにいたのは・・・・・・。
「・・・天根、君?」
「うぃ。」
そこにいたのは天根君だった。Tシャツパーカーにスウェット姿。制服とジャージ以外を着ているのを始めて見た。
天根君は見上げる私に手を差し出した。
「大丈夫か?」
「うっ、うん・・・。」
「悪かったな、こいつらいきなり走り出しちまって。ほら。」
「・・・・・・・。」
「手、つかまれ。」
「あっ、うん・・・。」
私は言われるがままに天根君の手を取ると、彼はその手を握りぐいと私を引っ張った。
私はその力を借りていとも簡単に立ち上がった。
そして天根君は私の手を離すと、リードを持って二匹の頭を撫でた。
「ありがとう。」
「いや、気にするな。」
「でも何で天根君が?この二匹黒羽先輩が飼ってる子達だよね?」
「あぁ。なんか・・・・・・。」
「なんか?」
「・・・・バネさんに頼まれた。」
天根君はそう言うと何故か私から視線を逸らした。
そんな彼を二匹も不思議そうに見つめていた。
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