放課後になったが、絢ちゃんにはあれから会ってない。早々に部活に行ってしまったらしい。会ったら会ったでいろいろと聞かれそうだ。
そう思いながら帰ろうと席を立ったら、ジャージ姿の東堂君がやってきた。
「丁度よかった、瀬名。」
「どうしたの、東堂君?」
「これ、お前に渡すの忘れてた。」
東堂君はそう言うと私にプリントを渡してきた。
見ればそれは今日の委員会で渡されたプリントだった。あの先生が書いた設計図もある。
「えっと、これは?」
「ダビデの分。」
「えっ、天根君の!?」
「そっ、お前一緒に組むんだろ?」
東堂君が目を細めて私を見つめながらそう言った。
いや、確かにあの時言ったのは私だけど・・・・・・・。
「いっ、一緒のクラスの星野さんに渡したら・・・。」
「その星野から頼まれたんだよ。」
「えぇ!?」
「兎に角、ほれ。」
東堂君はそう言うとプリントを私に無理やり持たせた。そして満足そうに頷くと、くるっと私に背を向ける。
「えっ、ちょっと・・・。」
「それじゃ、頼んだぞ。」
そう言いながら教室を出て行った。私は残されたプリントを見つめながら、小さくため息をつき改めて自分を呪った。
確かに組を提案したのは私だが、あの時は星野さんを応援しようと思っただけだった。図らずも天根君と一緒になってしまったのはまったくの偶然と言っていい。というか、同然だった。
私は帰り道を歩きながら大きくため息をついた。
絢ちゃんは勇気を出せって言うけど・・・・・。
「どうしたらいいのか、自分でも分からないんだよ・・・・。」
「わんわんっ!」
呟いた私に、犬の鳴き声が聞こえた。
我に返れば、足元に大型犬が一匹私を見上げていた。私がしゃがみこむとまた「わん」と吠えた。
よーくみればこの子どこかで見たことがあるような・・・・・。
「あっ、ここに居やがったのか。」
「あっ、黒羽先輩。」
そんな私にやってきたのは、黒羽先輩だった。スウェット姿でもう一匹黒い犬を連れているところからするとどうや散歩中だったらしい。
「瀬名。」
「こんにちは、お散歩ですか?」
「あぁ。ったく、ちょっと目を離したらこれだ。」
黒羽先輩はそう言うと私が触っていた犬に綱を付けた。私はもう一度頭を撫でると、立ち上がる。
「お前は今帰りか?」
「はい。先輩、今日部活は?」
「あぁ、今日は自主練だったんだ。部長の用事でな。」
「そうなんですか・・・・・。」
「お前、ダビデと委員会一緒なんだってな。」
「えっ!?」
黒羽先輩に頼もうかどうかとぼんやり考えていると、黒羽先輩がそう言った。
私はいきなり天根君の名前が出てきて鼓動が早くなる。
「なっ、何で知ってるんですか?」
「あいつが言ってた。」
「えっ、天根君が?」
「・・・・・・・・なるほどな、だからあいつ今日・・・・。」
黒羽先輩はそう言って何故か一人完結してしまった。そして私を見て頭を撫でる。
「で、お前ん家はこの辺なのか?」
「あっ、はい。」
「送ってくか?」
「いえ、すぐなので大丈夫です。」
「そうか。まっ、あいつの事よろしくな!」
「はい・・・・・。」
先輩はそう言うと踵を返すと、手を振って去っていった。
先輩が言いかけてたのって、結局何だったんだろう?
私はぼんやりとそう考えながら歩き始めた。
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