「お前、俺の名前知ってたんだな。」
「そりゃぁ知ってるよ。天根君有名人だもん。」
「そうか・・・。」
「うん。でも、天根君は私の名前よく知ってたね。」
「委員会の、プリントに書いてあったろ。名前。」
「そっ、そうだっけ?」
「あぁ。」
印刷したプリントを持ち、筆記用具やらメモが置かれたパソコンに戻ると、何故かその隣の席に天根君は腰掛けた。
委員会では彼は前に座っているのに、横に座るだけでこうも違うものなのか・・・・。
さっきので会話が終わってしまい、部屋には沈黙が流れる。
「あっ、天根君。」
「何だ?」
「今日部活は?」
「ない。剣太郎の用事でなくなった。」
天根君の話を聞きながら私はパソコンの電源を落とし、片づけを始める。
「テニス部の部長さんって一年生の葵剣太郎君でしょ?」
「よく知ってるな。」
「友達がよくテニス部見に行ってるから、それで聞いたの。」
「そうか・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
また沈黙が流れる。きっ、気まずい・・・・・。
絢ちゃんはチャンスと言っていたが、どうすればいいのか私にはまったく分からない。
「・・・・そうだ。」
天根君がそう呟いた。
そして制服のズボンのポケットを漁り、可愛らしい箱を取り出した。
手を止めてみれば、それは・・・アポロチョコ?
「匿ってくれたお礼してなかった。」
「え?」
「手、出せ。」
天根君はそう言うとアポロチョコの箱を開ける。
そして私の方にそれを向けてきた。
私は手を顔の前ににしぶんぶんと振った。
「お礼なんていいよ!」
「いいから。」
「本当に、大丈夫だから!」
「これ、嫌いか?」
「嫌いじゃないけど・・・。」
「ならいいだろ、手。」
「そっ、そう言う事じゃなくて・・・・。」
「・・・・・。」
断固拒否する私に、天根君はこの前のように眉間に皺を寄せた。
「前も思ったけど、お前意外と頑固だな。」
「・・・そっ、そういう天根君もでしょ?」
私がそう言うと何故か天根君は少し驚いたように目を丸くした。
「・・・・面白い奴。」
しかしそう言ってそのまま少し目を細めると、唇を緩ませた。
そんな表情に、鼓動が一層大きく早くなる。
そんな私を知ってかしらずか、天根君は私の右手を掴むと、その手のひらにアポロチョコを5つのせた。
そしてゆっくり手を離すと私の手にのるアポロチョコを一つ摘んで口に放り込む。
「・・・ありがとう。」
「うぃ。」
私も手から一つを取ると口にする。チョコの甘さが口に広がった。自然と頬が緩む。
「・・・好きなの?」
「えっ?」
「甘いもの・・・・。」
天根君はまた私をじっと見つめると、また私の手からアポロチョコを取った。
「・・・あぁ、好きだ。」
そう言って口にすると、また口を緩ませた。また大きく鼓動が鳴った。
今日分かった事は、彼の笑顔と甘いものが好きだという事。
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