「大丈夫か?」
私が無言で頷くと、腰に回っていた腕が私から離れた。
私は急いで彼から離れるが、天根君の視線は私に向いたままだ。
いきなり出てきた事によって、一気に鼓動が早くなる。
「C組、だよな?・・・。」
「あっ、うん。そうですね・・・。」
「何で敬語?」
「いや、・・・ごめんなさい・・・・。」
私はそう言って天根君から視線を逸らした。無言で見つめられるその視線が耐えられない・・・。
そして私は慌てて頭を下げた。
「あっ、ありがとう。」
「いや、怪我ないか?」
「うん・・・。」
私がまた頷くと、天根君はラケットを脇に挟むと散らばった本を拾い始めた。
私も急いで薄い本を拾う。
「ありがとう。はい。」
「・・・・・・・・。」
天根君は重い百科事典やら分厚い本ばかり5冊を軽々と持っている。
私はというと薄い本2冊。私は拾ってくれた天根君が持っている本をもらうために手を差し出した。
しかし彼はその手をじっと見つめた。
「これ、どこに運ぶんだ?」
「えっ、あっ、教材室だけど・・・。」
「じゃぁそこまで俺が運ぶ。」
「えっ!?」
天根君はそう言うとあろうことか今度は私の持っている残りの2冊を奪うと、軽々とそれを積み上げた。
「あっ、ちょっと待った。」
「何だ?」
「先生に頼まれたの私なのに、天根君に持ってもらうのは悪いよ。」
「大丈夫だ、用事のついでだ。」
「でも、天根君はよくても私がいやなの。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
私がそう言うと天根君は眉間に皺をよせた。そして小さくため息をつく。
私はというと内心、バクバクだった。ほぼ初めて話したというのに強い口調で言ってしまった。
いろんな意味でドキドキしながら彼を見つめると、「じゃぁ」と呟いて天根君が何故か私の手にラケットと部誌を乗せた。
「え?あれ?これ天根君の・・・・。」
「お前はそれもって来い。」
「え??」
天根君はそう言うと、すたすたと歩き出してしまった。
私はその背中に少し見惚れてしまった。彼はなんと言うか・・・・優しい人だ。うん。
私はラケットと部誌を持ち直すと、急いでその背中を追いかけた。
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