今日は2月14日。バレンタインであり、そして俺の誕生日である。
しかし今の何でこんな事になっているんだろう。
「長太郎きゅん、ソファーソファー!」
「はいはい。」
そう言って俺の首に腕を回すのは誰でもなくチロルさんだ。俺は言われるがままにチロルさんを横抱きにすると、部室のソファーに運ぶ。ゆっくり降ろしたけど一向に俺の首にしがみついて離れないチロルさん。普段なら絶対にそんな事しないのに、と思いながら仕方がないので俺もソファーに座った。
放課後、日吉に呼び出しを受け部室に向かうやいなや宍戸さんに持っていたプレゼントやらチョコやらを奪われた。驚く暇もなく背中を押されてれば、いつの間にか俺の胸に抱きつくチロルさんが。
『お前が来てくれて助かったわ。』
『鳳、それはお前が責任もってどうにかしろ。』
宍戸さんと日吉を筆頭に俺の顔を見て安堵の表情を見せるみなさん。
何でもチロルさんが跡部さん宛のウィスキー入りのチョコを食べてしまったらしい。
『何個食べたか知らねぇけど、酔っぱらったらしくて。』
『そないな様子で跡部に絡んで、激怒させよった。』
あの跡部さんを激怒って、何したんですかチロルさん・・・・。
『というわけだから、跡部の機嫌が治るまでそいつ何とかしてくれ。』
『な、何とかって。』
『頼んだぞ、長太郎!』
みなさんはそう言って俺とチロルさんを残し部室を出ていってしまった。
チロルさんは俺の首から腕を離すとまた胸に抱きついてきた。どうしようかと迷っていると、彼女が首だけ俺の方を向いた。
「チロルさん、大丈夫ですか?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。」
呂律が危うい所を見るととても大丈夫そうには見えない。
「何個食べたんですか?」
「そんにゃに食べてないよ〜?」
「・・・何個食べたんですか?」
「6っこ!」
そんなに、どうりで呂律が回らないはずだ。跡部さんのウィスキー入りのチョコなら外国のものだろうし・・・。
そんな事を考えていると、チロルさんが「あ」と声をあげるとどこからか水筒を取り出していた。
「それは?」
「チョコだよ。」
「チョコ、ですか?」
先輩は俺から少し離れると、頷き水筒の口を回した。すると中から甘いいい香りが漂ってきた。
「じゃーん、ホットチョコレートぉ!」
「へぇ。」
「飲んでぇ飲んでぇ!」
「あぁ、チロルさん危ないです!自分でやるので・・・・」
俺は危なっかしいチロルさんの手から水筒を奪い取ると、ソファーの下に置いた。しかしカップになっているふたはまだ彼女の手に。そこにはなみなみにホットチョコレートが注がれている。こぼさないかはらはらしながら見つめていると、チロルさんがそのカップに口をつけた。そして八分目ぐらいになるのを見て満足したのか、俺にカップを差し出す。
「味はだいじょうぶ!」
「・・・いただきます。」
そう言ってホットチョコレートに口をつける。思っていたよりも甘くなく、すごく飲みやすかった。そんな俺を至近距離でチロルさんが見つめる。ちょっと恥ずかしい。
「どう?」
「はい、美味しいです。」
「よかったぁ、バレンタインで誕生日だから、がんばって作ったんだよ!」
「ありがとう、ございます。嬉しいです。」
「・・・ほんとに?」
「本当ですよ。」
何というか初めてちゃんとチロルさんからプレゼントを貰った気がする。
まぁ、チロルさんが酔っぱらっていたのも予想外だったけど。
そんな事を考えていると、チロルさんが俺のネクタイを引っ張った。我にかえった俺に彼女はそのまま顔を近づけると、俺にキスをした。ほっぺでもなくて唇に。
唖然とした俺をよそにチロルさんはまた俺の胸に抱きついた。
「・・・ほんとは、いちばん最初に、チョコもおめでとうも、言いたかったんだ、よ。」
「チロルさん・・・。」
「誕生日、おめでとう・・・・ちょうたろう、くん・・・・。」
名前がほとんど聞き取れなかったのはチロルさんがそのまま眠ってしまったせいだ。
俺は熱くなった顔を誤魔化すようにまたホットチョコレートに口をつけた。そうだ、顔が火照っているのはこれのせいだ。うん。
俺は彼女の背中に腕を回すと、緩む頬をどうしようとホットチョコレートを飲みながら考えた。