「ヒカル君。」
聞き慣れた声で名前を呼ばれる。声だけで分かる。
振り返るとやっぱりおめでとうがいた。俺の姿を見て微笑むと何かをぱっと後ろに隠した。
「ここにいたんだね。」
「もしかして、探してたか?」
「うん。」
「そうか、悪かったな。」
そう言ってケーキをまた口に運ぶ。何故か跡部さんから送られてきた誕生日ケーキ。樹っちゃんが切り分けてくれた。サイズがでかいから切るのに苦労してたけど。
おめでとうは俺の隣に座ると、じっとそのケーキを見つめた。
「お前もいるか?」
「え、私は、」
「あーん。」
ケーキをのせたフォークをおめでとうの口元に運ぶ。途端に顔を赤くさせるが、やがて観念したように口をつけた。そして眉を下げる。
「・・・・美味しい。」
「跡部さん特性らしいからな。」
「跡部さん、って氷帝の跡部様?」
「そう。」
「・・・・。」
俺がそう言うとおめでとうはますます眉を下げた。そしてまた何かを後ろに隠す。
「おめでとう。」
「何?」
「それ、何。」
「え?」
「後ろにあるやつ。」
指さしながら俺がそう言うと赤かったおめでとうの顔がみるみる青ざめる。
「な、何もないよ。」
「いや、ある。」
「な、ないよ!」
「ある、ほら。」
ころころと変わる表情は可愛いいけど、わかりやすすぎだ。俺は腕を伸ばしておめでとうの後ろにあるそれを持ち上げた。紙袋だ。
おめでとうは「あぁ!」と言って手を伸ばすので、腕を伸ばしおめでとうに届かないように自分のもとに運ぶ。
「プレゼント?」
「ち、違うの!それは。」
「ありがとう。」
「そうです」とおめでとうの顔に書いてある。俺は皿を横に置くと、紙袋の中から小さめの箱を取り出す。箱の上にも『Happy birthday!』と書いてある。やっぱりプレゼントじゃないか。
「わぁ、待ってヒカル君!それは、その、プレゼントだったんだけど、プレゼントじゃなくて!」
「プレゼン途中のプレゼント・・・・ぷっ。」
俺の腕にしがみついたおめでとうをよそに、箱を開くとそこにはケーキがあった。小さいチョコレートケーキ。
「・・・・。」
「あの・・・・これがプレゼントその1のつもりで作ったんだけど、まさかケーキあるって知らなくて・・・。」
おめでとうが俯きながらそう言った。そして腕から離れる。しょんぼりしてしまったおめでとうを見てようやく理解した。跡部さんのケーキを食べてた俺を見たから、とっさに自分のケーキを隠したのか。俺はおめでとうのケーキにフォークをさす。そしてひと口切って口に運んだ。
「ひ、ヒカル君、無理して食べなくても大丈夫だよ?」
「今日三個目のケーキだ。」
「え!?なら尚更無理しなくても・・・・。」
一つめは樹っちゃん手作りのイチゴタルト。二つめは跡部さん専属シェフのショートケーキ。そして三つめがこのチョコレートケーキ。
「無理してない。三個とも、美味い。」
「・・・よ、よかった。」
「でもこれが一番美味い。」
そう言ってまたおめでとうの口にケーキを運ぶと、さっきよりも真っ赤でまたケーキを口にした。
どのケーキも美味しいけど、やっぱりこのケーキだけは特別だ。
「お誕生日おめでとう、ヒカル君。」
「ありがとう。」
そう言ってお互い笑いながら顔を近づける。おめでとうも俺の袖をきゅっと掴んで自然と目を閉じた。
「あっ、こんな所にいたダビデ!」
鼻と鼻がつきそうな時、遠くから剣太郎の声が聞こえてきた。その声にまたお互い見つめ合い、微笑んでしまった。
渋々おめでとうから離れようとしたが、しかし逆におめでとうが掴んでいた俺の袖を引っ張る。そして背伸びをして俺の鼻にキスをした。突然の事に持っていたフォークを落とした。
「えっと、プレゼント、その2・・・・ってね。」
おめでとうは笑って小さくそう言った。そして「後でね」と言って立ち去る。俺はただ遠くなる背中を見送るだけだった。
そんなおめでとうと入れ替わるように剣太郎がやってきて、落ちたフォークを拾い上げた。
「ダビデ、みんな探してたよ・・・・って、どうしたの?」
「・・・・その3があってもいいと思って・・・・。」
「え、何その3って?」
剣太郎が不思議そうに首をかしげる。そしておめでとうのケーキに気づいた。
「あっ、それおめでとうさんが作ったケーキ?いいなぁ、僕にも、」
「ダーメ。」
俺がフォークを奪うと、剣太郎はぷくっと口を膨らませた。
その3は貰えなくても、その1だけは俺のだ。
2013.11.22. Birthday