「トリックオアトリート。」



手塚の口から出てきた言葉に、久々に驚いた。手塚の言葉に驚く事は実は多々ある。普段は逆に言葉足りずぐらいなくせに、時々彼は突飛しもない事を言う。私が告白した時もそうだった。「好き、です」と告白した私に「実は俺も前から・・・」と言われた。あの手塚からそう言われ、自分から告白したくせに疑ってしまったぐらいだ。
そして今もそうである。一緒にお昼を食べ終えるなり、そう言われた。思わずジュースを吹き出しそうになる。



「て、手塚ハロウィン知ってたんだ。」

「あぁ、ただで菓子が貰える日だと桃城と越前が言っていた。」

「若干違うよ。」

「そうなのか?」

「うん。」



桃城君と越前君は確かテニス部のレギュラーの子達だったか。



「それに・・・。」

「ん?」

「不二も似たような事を言っていたんだがな。」



手塚の口から不二の名前が出てきて驚いた。思わず隣に隠しておいた紙袋をさらに後ろに隠す。中にはハロウィン用に用意した手作りクッキー。しかし見た目も味も微妙な出来。
手塚に渡そうと作ったけれど・・・・・渡したくないのが本音だ。手塚の事だから、私がハロウィンネタを振らなければ、話にならないだろうと思っていたのだ。しかしそれが間違いだった。



「わ、私今お菓子持ってないんだ。ごめん。」

「・・・・そうか。」



私の言葉に手塚の眉が少し下がる。手塚の表情は大きく崩れはしないが、部分部分で表情が読み取れるようになったのはごく最近の事だった。
ごめん手塚、鞄にチョコが入ってるから後で持っていこう。そう心に決めて隣の紙袋を一層隠そうと手をのばした時だった。
もふっ。
紙の感触ではない、もっとふかふかした何かが手に触れた。思わず驚いて体ごと手塚の方に身を引くいて、その腕にしがみつく。



「ぎゃ!」

「どうした?」

「なんか、もふっとしたモノが手に・・・・・あ。」



腕にしがみついたまま紙袋の方を見れば、そこには毛むくじゃらのたぬきくんがいた。ん、たぬき??毛むくじゃらのたぬきくんは私の方を見ると「ほあら〜」と鳴いた。
え、たにきって鳴くんだっけ??
手塚もそのたぬきもどきくんを見ると、メガネを上げる。



「お前は確か・・・・。」

「え、知り合い?」

「越前の所の猫だ。」

「ね、猫・・・・・。」



毛むくじゃらのたぬきくん、もとい猫くんはまた「ほあら〜」と鳴いた。変わった柄、そして変わった鳴き声・・・・。猫くんはその場で伸びを一回すると、あろうことかその隣にあった私の紙袋を足で倒し、持ち手の所を口に加えた。そして引きずるようにして歩きだす。




「ちょ、ちょっと猫くん!!」



慌てて手塚の腕から離れて紙袋の底を手にするが、持ち手の所を持つ猫くんは離そうとしない。それどころか「おれの獲物に何すんだよ」みたいな目で睨んでくる。
しかしここで引き下がる訳にはいかない。手塚にばれる前になんとか紙袋を、せめて中身だけでも回収しなければ。



「キャンディ、その紙袋はお前のなのか?」

「え?あぁ、うん、一応・・・・。」

「そうか。」



やばい、手塚に気づかれた。早く取り返さないと・・・・・しかし猫くんは一向に離す気配はない。どうしよう・・・・・。
そう思っていると、手塚が猫くんの後ろに回り込んでいた。そしてあっという間に猫くんを抱っこした。猫くんの口から落ちる紙袋。そして本当に「あ」っという間もなく、紙袋が逆さになり、中にあったクッキーの入った袋が散乱した。おまけに手塚用、と書いた附箋も本人の足元に飛んでいく始末。あー、もう・・・・本人にだけは見られたくなかったのに・・・・。



「ご、ごめん。ありがとう手塚。」

「これは・・・・俺にか?」



私が拾うよりも先に私が作ったクッキーは手塚が拾っていた。おまけに附箋まで。慌てて奪い取ろうとするが、それより先に手塚用とかかれた附箋をクッキーに張り付けた。
右手に猫くん。左手にクッキー。普段の手塚とは実に似合わない恰好だ。
私が手塚を見つめてコクリとただ頷くと、手塚はまたメガネを上げた。



「・・・でも形も味も微妙だから、やっぱり返して。」

「そうかなのか?うまくできていると思うが。このまま貰っては・・・・ダメか?」



いつもの真剣な顔でそんな事を言うものだから、私は断れるはずがない。この顔が好きで告白したのだから仕方がない。私はもう一度小さく頷くと、附箋だけは奪い取った。それを制服のポケットにしまうと、猫くんが私の前にやってきた。



「わぁ。」

「・・・ありがとう、キャンディ。」



猫くん越しにそう聞こえた。手塚が猫くんを私に渡してきたらしい。私は猫くんを抱きなおすと、そんな猫くん越しに赤い顔をそむける手塚の姿が見えた。あぁもう、そんな手塚も大好きだ。
やっぱりさっき考えた鞄のチョコレートは不二にあげよう。それから君にも後で何かあげよう、猫くん。そう思いながら頭を撫でた猫くんは、私を見上げて不思議そうに「ほあら〜」とまた鳴いた。


\2013HALLOWEEN/

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