「あ、仁王君。」
「・・・お前さんか。」
ピエロの格好をした仁王君の姿を見つけた。中庭の木の下に隠れるように座っている。そう言えば今日はテニス部でハロウィンやると聞いた。元々仁王君は目立つからその格好はより目立つだろう。
おまけにその手にはシャボン玉キット。ピンクの容器に黄色いストローを浸している。
「何やってるの?」
「シャボン玉作っとる。」
そう言って仁王君はそのストローを口にくわえた。そしてストローの先から丸いシャボン玉が生まれ、飛んでいく。
「わぁ・・・。」
「お前さんは柳生を探しとるんじゃろ?」
「うっ。」
「アタリみたいやのぉ。」
仁王君はそう言うとニヤリと笑った。そしてまたストローを容器に浸す。
彼の言う通り、私は柳生を探していた。ハロウィン用に作ったクッキーを柳生君に渡すために。
「・・・よく分かったね。」
「お前さんは分かりやすいからのぉ。」
「え!?」
「で、柳生には会えたんか?」
「・・・会えてません。」
同じクラスのはずなのに、今日に限って授業以外会っていない。バレンタインの時みたいに下駄箱に入れればいいのだけろど・・・・今回くらいはちゃんと渡したい、と思っていたんだけど・・・。
私はクッキーが入った小さい紙袋を見つめた。
「仁王君、この後柳生君に会う?」
「まぁ、部活で会うかもしれんのぉ。」
「そっか・・・。」
仁王君に渡して貰おうと思ったけれど、やっぱりやめた。ちゃんと渡せないと意味がない。紙袋を見つめて握りしめた私の前に小さなシャボン玉が。私の前にくるとパチンとはじけて消えてしまった。
「キャンディ。」
「何?」
「・・・トリックオアトリート。」
ストローをくわえながら仁王君がそう言った。何回かまばたきして見ると、仁王君は私に手を差し出した。私はおもむろに持っていた小さな紙袋をその手にのせた。
「・・・くれるんか?」
「そう意味じゃなかったの?」
「いや、本当にくれるとは、思ってなかったので・・・。」
「え?」
「いや、何でもなか。ありがとうな。」
仁王君は小さくそう言うとストローとシャボン液の容器を足元に置いた。そして紙袋をごそごそとあさると、私の作ったクッキーをつまむ。
「うん、美味しい。」
「よ、よかった。」
「後で彼にも渡しておくぜよ。」
「彼?」
「こっちの話じゃ。」
仁王君は私のクッキー2枚目を口にくわえながら、私の手を取った。そして私の手にジャックオランタンが書かれた袋を置いた。
「こ、これは?」
「俺からの、と言いたい所じゃが、柳生から貰ったスコーンじゃ。お前さんにやる。」
「え、いいの?」
「あぁ、その方が嬉しい。って、柳生も思っとる。」
「本当に?」
「あぁ、お前さんが思ってるよりあいつは単純じゃからの。」
「単純?どういう事?」
「気になってる子にお菓子貰えて舞い上がってる、って事なり。」
仁王君はそう言うと私のクッキーをかじった。私は貰ったスコーンを見つめながら、嬉しそうにクッキーを食べる仁王君の隣に座った。
「そう言えば仁王先輩は?」
「仁王?仁王ならもういるじゃないか。」
「え?いないじゃん、幸村君?」
「いるじゃないか、横に。」
「ま、まさか・・・。柳生先輩が、仁王先輩!?」
「・・・流石やのぉ、幸村。」
「途中からばればれだったよ。試合中だったらアウトだね。」
「プリっ。」
「げ、柳生先輩が仁王先輩っていう事はさっきのアドバイスも・・・。」
「相変わらずからかいがいがあるのぉ。」
「ひ、酷いっす!」
「じゃあ本物の柳生はどこにいるんだよぃ?」
「さぁ?」
「さぁ?って、お前・・・・。」
「好きな子にハロウィンのお菓子でもねだってるんじゃなか?」
「柳生先輩が?有り得ないっしょ。」
「そうかのぉ?」
\2013HALLOWEEN/