ジューンブライド。
6月の結婚にはそんな名前がついている。
女はやたらそういうのが好きだよな。雑誌でもテレビでもそういうのが取り上げられてるし。店の前だってウエディングドレスやら指輪やらがやたら飾られてる。今出てきた2人も小さい紙袋をぶら下げて・・・。
「ブンちゃん。」
「ん?」
「どうしたの?」
「何が?」
「いや、ブンちゃんがケーキにまったく手付けてないから。」
「・・・今から食うんだよ。」
そう言って目の前のケーキにフォークを突き刺す。
俺はショートケーキ。ありがとうはフルーツタルト。気になっている店で買ってきたとこいつは言ってたが、正直言って味は微妙だ。ありがとうもそうだったらしく、微妙な表示を浮かべている。まぁ、食えなくはねぇけど、確実に俺が作った方が美味いだろぃ。
「はぁ、6月だね。」
「何当たり前な事言ってんだょ。」
「だってもう今年も半分終わったんだよ!?ダイエットだってまだ途中なのに・・・。」
「まぁ、そんだけ食ってりゃなぁ。」
「酷い!ブンちゃんも同じの食べてるはずなのに!」
「俺はその分消費してるからな。」
「むぅ・・・。」
そう言って拗ねるありがとうはぶっちゃけそんなに太ってはいない。気にしすぎなんだよ、直接言うと喧嘩になるから言わねぇけど。
「後は、ジューンブライドだね。」
そう言ったありがとうに思わずケーキを口に運ぶ手を止める。気づかれないように俺のバックの横にある小さい紙袋を見る。それは店から出てきたあの2人が持っていた紙袋と一緒だった。
まさか、流れにまかせて指輪を買っちまうなんて・・・・。思い出して頭を抱える。
「ブンちゃん、本当に大丈夫?」
「何でもねぇって。」
「本当に?」
「本当。」
「・・・なら、いいけど。」
平常心を装ってケーキを口の中に押し込む。
そんな俺をよそにありがとうは俺のケーキに手を伸ばす。
「あ、知ってる?ジューンブライドって言うけどさ、実際6月に結婚式上げるカップルってそんなにいないんだって。」
「は?マジ?」
「うん、5月が一番多いらしいよ。」
「じゃあジューンブライドじゃなくて、メイブライドじゃねぇかよ!」
「ヨーロッパだと6月って過ごしやすい気候で結婚式とか挙げやすいらしいけど、日本じゃ梅雨だからね。憧れるけど私もジューンブライドじゃなくてもいいなぁ。」
「じゃあ、何月がいいんだよぃ。」
「何月でもいいかな。」
「じゃあ、今月でもいいんだろ。」
俺は勢いに任せてそう言うと、あの小さい紙袋をありがとうの前に持ってきた。ありがとうは紙袋から小さい箱を取り出すと、大きい目をさらに大きくさせた。
そして小さい箱をケーキの横に置くと、ありがとうは俺のショートケーキに手を伸ばした。
「・・・ぷ、プロポーズですか?」
「わ、悪いかよ。」
「いや、悪くないけど・・・・。」
ありがとうはそう言ってショートケーキをほおばる。視線を泳がすありがとうを見ながら俺もショートケーキを口に押し込む。正直言ってもうケーキの味なんて分かんねぇ。
「ブンちゃんの事だから『お前のみそ汁、毎日飲みてぇ』とか言うもんだと思ってたから・・・・。」
「お前、俺を何だと思ってんだよ。」
「あはは、ごめんごめん。」
「・・・少なくとも、今食ってるケーキよりは美味いもん食わしてやるよ。」
「・・・・・・・。」
俺はそう言ってありがとうのタルトに手を伸ばした。メロンの塊をフォークで突き刺して、口に運ぶ。メロンは美味い。
そんな俺の向こうではにやけ顔のありがとうの姿が。指輪の箱を開けて俺に微笑むと、机から身を乗り出して俺の頬にキスをした。
唖然とする俺にやっぱりにやけ顔のありがとう。今のはOKっていう事か?
次はタルト作りに挑戦しようという考えを頭の端に追いやり、買った指輪をはめてやろうとフォークを置いた。