自慢じゃないがお酒には強くない。一度友達と飲んでベロンベロンになり玄関で寝ていたら、やってきた景ちゃんにそりゃもうこっぴどく怒られた。あれ以来あんまりお酒を飲まないようにしていた。
わぁー、今のこんな私の姿みたら景ちゃんはそりゃもうブチキレるだろうな・・・・・。
「ん?今のこんな?」
目を開けると汚れ一つもない綺麗な天井が見えた。明らかに自分の家じゃないな。
「あ、起きた?」
そして聞こえてきた声とかかる影。視線を辿れば、そこには見知らぬ男性が。
ん、見知らぬ?
「あ!」
ごんっ
起き上がろうとした私にそんな音と共に鈍い痛みがおでこに起こった。地味に痛い・・・・。勿論相手もそうらしく、苦笑いを浮かべおでこを押さえている。
「す、すみません。」
「大丈夫?」
「はい・・・・。」
男性はそう言うと安心したように優しく笑った。私は今度はゆっくりと起き上がる。おでこも痛いが頭も痛い。こっちは確実にお酒のせいだ。
ふかふかのベッドで私は寝ていたらしい。そしてその横から私を覗きこむ男性。
「あの・・・・。」
「何?」
「ここは、どこなんでしょうか?」
「あぁ、ホテルの部屋だよ。君が倒れたから急遽用意したんだけど・・・・覚えてない?」
・・・・あぁ、いろいろと思い出してきたぞ。確か昨日景ちゃんにお見合いをさせられそうになって、赤ワインをあおって、少年がココアをこぼして、この人に会って・・・・・・。
「あ。」
「思い出した?」
「は、はい・・・。」
「水持ってくるから待ってて。」
男性はそう言うとベッドから離れた。
彼の背中を見送ると、頭を抱える。そうだそうだった。酔っていたとはいえ『付き合ってください』的な事まで言ったんだ。うわぁ、何で思い出したくない事まで思い出すんだよ、私。
「はい、どうぞ。」
いつの間にか戻ってきた男性はそう言って私に水の入ったグラスを差し出した。私は顔を上げてそれを受け取ると、口をつける。冷たい水が体に染み渡る。
「ありがとうございます。」
「それで、昨日の事なんだけど、」
「いや、あの、昨日私が言った事は綺麗さっぱり忘れていただければと!」
「言った事?」
「いや、忘れているならそれでいいんですけど・・・・。」
「ふふ、クリーニング代の事だよ。」
「あっ、あぁ、クリーニング代。クリーニング代、ですよね。」
はぁー、びっくりしたぁ。とりあえずグラスの水を飲み干してベッドサイドの机の上に置くと、ベッドから抜け出した。
「あぁ、やっぱり染みになってるね。」
男性は私のワンピースの裾を見ながらそう言った。私はとっさに裾をひらひらとさせると、そのままベッドに腰掛けた。
「これぐらいだったら本当に大丈夫です。洗濯の時どうにかしたら落ちますから。」
「でも・・・。」
「それにこんな事までしていただいたので、十分です。」
「・・・・なら。」
男性はそう言うと私の隣に腰掛けた。
「・・・・なら、お互い何か一つ願いをきくというのはどう?」
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