景ちゃんは食事だ、とは言っていたけれど・・・・・。
「なんで着替えさせられてるんだろう?」
シンプルなワンピースに、花の髪留め。お化粧もしっかりした。
景ちゃんが連れて行ってくれる所はいつも行くようなファミレスやましてはファーストフードでもない。レストラン。しかも高そうな。私が二十歳の誕生日の時はおしゃれなバーに連れてってくれた。
そして今回もそんな高そうなホテルのレストランである。しかも個室に案内された。
「着替えは済んだか?」
「うん。」
そう言って入ってきた景ちゃん。先ほどまで緩んでいたネクタイもビシッと締め、いつもの見慣れた景ちゃんに戻っていた。
部屋は夜景が一望できそうな大きな窓。そしてこれまた大きなテーブルに、配膳されたお皿が3つ。
ん、3つ?
「先に座ってろ。」
「景ちゃん。」
「何だ。」
「食事するんだよね?」
「さっきそう言っただろ。」
「でもお皿とか3つずつあるんだけど。」
「・・・・・・。」
私がテーブルを指差しながらそう言うと、景ちゃんは少し目を細めた。そしてゆっくり私に近づいてくると、私に近い椅子を引く。私は戸惑いながらもそのまま椅子に腰を下ろすと、景ちゃんが私の肩に手を置いた。
「碧。」
「な、何?」
「お前にはこれから見合いをしてもらう。」
・・・・・・は?
「相手は俺の後輩だ。安心しろ、悪い奴じゃねぇ。」
「ちょっと待って、何だって?」
「だから、お前にはこれから見合いをしてもらうって言ってんだ。」
「見合いって・・・・。」
「見合いは見合いに決まってんだろ。」
景ちゃんはそう言うと私の隣の席に座った。長い足を組むと置いてあったグラスの赤ワインを一口口にした。
今だ呆然としている私とはなんとも対照的だ。私はそんな景ちゃんを見ながら立ち上がる。
「お見合いとか、そんなの聞いてないんだけど!」
「当たり前だ。今言ったんだからな。」
「なっ!」
「こうでもしねぇと確実に逃げるだろ、お前。」
「・・・・でも、これは、あまりにも急すぎるよ!」
「俺はな。」
私の言葉を遮るように景ちゃんが強い口調でそう言った。そしてまた立ち上がると、私に一歩近づく。
「・・・・お前には幸せになってほしいんだ。それがお前の父親の最後の頼みでもある。」
「お父さんの?」
「あぁ。前から言ってるだろ、お前の父親には世話になったってな。」
「・・・・・それでもお見合いなんて、絶対に嫌!」
まだちゃんとした恋だってした事ないのに、お父さんか景ちゃんかの決めてもらった人と結婚するなんて絶対に嫌!そう言って机の上の赤ワインのグラスを掴むと、それを一気に飲み干した。自慢じゃないが、お酒はそんなに強くないほうである。
前にいる景ちゃんが「お前」とちょっと怒った声でそう言ったが気にしない。空になったグラスをダンと机の上に戻すと、精一杯景ちゃんを睨みつけた。
「・・・その言いよう、好きな奴でもいるんだな。」
「・・・・いるよ、私だって。」
いるわけないじゃん。お酒に任せて口から出まかせを言ってるだけ。
景ちゃんはそう言った私を見て少し目を丸くさせると、ため息をついた。そして胸ポケットからスマートフォンを取り出す。
「そうか、いるんだな。」
「うん。」
「なら、仕方ねぇ。今日の見合いは中止にしてやる。」
「本当!?」
ようやく景ちゃんも嫌だという事に納得してくれたらしい。お酒の力を借りてよかったー。
「ただし。」
「え?」
「2週間以内にその男を俺の所に連れてこい。」
「はぁ?何で!?」
「その男がお前にふさわしい男かどうか、俺が見定めてやる。」
「つ、連れてこなかったら・・・・・?」
「2週間後、またお見合いをしてもらう。」
景ちゃんはそう言うとスマートフォンを操作して電話をかけ始めた。どうやら相手の人みたいだ。
お見合いを回避したと思ったらまた逆戻りだ。結局誰かしらと付き合ってないとお見合いさせられるって事!?お酒がまわり始めた頭で考えてもただぐるぐるとそれが頭の中を回るだけだった。
今になってお酒の力に頼った事を後悔した。
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