桜の花が散って、また一つ学年が上がった。
私は大学二年生になり、ようやくレポートや講義にも慣れてきた。



「おい。」



バイトも始めた。路地裏にある喫茶店。あまりお客様は来ないけど、制服が可愛い。



「おい。」



それからこの前初めて合コンに・・・・。



「おい、聞いてんのか。」

「・・・聞いてるよ。」



眉間に皺を寄せてそう言ったのは隣に座る景ちゃん。
彼の名前は跡部景吾。なく子も惚れる跡部財閥系のお坊ちゃまだ。私の亡くなった父が彼の部下だった事もあり、小さい頃から遊んでもらっていた。父が亡くなってからもよくしてもらっていて、今こうして私が暮らしていけるのも彼のおかげと言っても過言ではない。
そんな彼の車(リムジンという奴)の後ろに座り、景ちゃんを見れば若干不機嫌そうにシートにもたれかかっている。



「俺様が直々に迎えにきてやったのに、不満か?」

「・・・・・これでこなくてもいいじゃん。」

「あーん?」



授業が終わると東門に黒塗りの高級車。そして誰よりも目立つ景ちゃん。勿論騒がれないはずがない。友達もそうで、げんなりする私とは対照的に物凄くテンションが上がっていた。



「友達に『えっ、あの人友達!?彼氏!?』って言われた。」

「ふんっ、ありえねぇな。」

「ですよねー、景吾坊ちゃま。」

「お前・・・次それで呼んだらお前のバイト先に押しかけるからな。」

「ごめんなさい、それは本当に勘弁してください。」



景ちゃんはそう言うと笑う。微妙に馬鹿にされてるな、これ。
私と景ちゃんは6つ歳が離れている。しかし父亡き後「お前の父親には世話になった」と言っては面倒をみてくれるのでお兄ちゃんというよりも父親感覚だ。絶対に口には出さないけど。



「で、どうしたのいきなり。海外で仕事じゃなかったの?」

「あぁ、だが予定よりも早く片付いたんでな。用事もあるから、戻ってきた。」

「ふーん。」



どうやら仕事が終わったその足で帰ってきたようだ。ネクタイは少し緩んでいるけど、高そうなスーツのままだ。
そんな景ちゃんを横目にみながら、流れていく車窓を眺める。



「お前、確か今日はバイトなかったな。」

「うん。」

「なら、これから食事だ。付き合え。」

「というか何で私のバイトの休みを知ってるの。」

「俺様を誰だと思ってやがる?」

「そうでした、景吾坊ちゃまでした。」

「お前・・・・。」



バイトは景ちゃんに内緒で面接を受けた。(勿論後でばれたけど)
私がわざとからかうようにそう言うと、景ちゃんは私の髪をぐちゃぐちゃにかきまぜた。そして右頬をつねる。いつものことだ。景ちゃんの中ではいつまでも私は小さい子らしい。これでも大学生なんだけど!つねられながらそう言うと、景ちゃんは面白そうにふきだした。
 
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