「朝比奈さんどうしたの?なんか元気ないよね。」

「・・・・・・店長。」



バイト帰り、着替えが終わって事務室から出てきた私に丁度出勤してきた店長が私を見るなりそう言った。



「いや、なんでもないです。」

「あ、もしかして失恋したとか?」



グサリと刺さった言葉に立ちつくしていると、店長は「まさかね」と笑い出す。
そんな店長は新婚ほやほやで、今の私とは真逆と言ってもいいだろう。



「それともお腹すいた?」

「いや、まぁ・・・・・・・はい、もうそういう事でいいです。」

「まぁ、とりあえず元気だしてよ。なんなら私の幸せを分けてあげるから!」



「あははは・・・」と力なく笑い返して、さっさとバイト先を後にした。
景ちゃんの家で泣いた日からもう3週間、私はまたいつもの生活に戻ろうとしていた。
大学に行き、バイトに行って、家に帰ってレポートを書く。景ちゃんもまた海外での仕事に行ってしまったらしく、連絡すらない。
あのお見合い騒動がなんだか嘘のように、いつもの日常だった。



「げ。」


そんな事を考えながら外に出れば、雨が。しかも結構降っている。
傘も、勿論折り畳みの傘も持っていなくて、降りしきる雨を呆然と見つめた。



「はぁ、仕方がない、コンビニで傘買おう・・・・・。」



一番近くのコンビニまでは少しあるけど、濡れるのを覚悟して走って行くしかない。うん。私は鞄を抱えると意を決して雨の中に飛び出した。
思ったよりも大粒で冷たい雨が髪や服や靴を濡らす。
早くもでき始めた水たまりが前方にあるのを見つけて、助走をつけて飛び越えようとした。それがまずかった。



「わっ。」

「おっと。」



向かいから来た人に思いっきりぶつかった私はバランスを崩したが、大きな手に腕を引かれる。
それは明らかにぶつかった相手だった。



「大丈夫?」

「はい、すみませ・・・・・・・。」



お礼を言おうと顔を上げて驚いた。私の腕を引いたのは・・・・・鳳さんだった。
スーツ姿の彼は私の知っている優しい笑顔で私に持っていた傘を傾ける。



「いきなり走ってきたから、驚いたよ。」



そう言った鳳さんはどこからかハンカチを取り出すと、濡れた私の髪や肩をそれで拭いてくれる。状況がつかめない私に、鳳さんはようやく腕から手を離した。
小さな二人の空間の外で、雨の音がする。



「どうして、ここに。」

「うん、君に会いに来たんだ。」
 
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テーマ「人外ファンタジー」
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