「浮かない顔してるな。」

「景ちゃん・・・。」



あっと言う間に景ちゃんの言っていた期限になってしまった。勿論1人でやってきた。
あれから私は何だか上の空だった。胸の痛みは治らず、かさぶたすらならない。ズキズキと傷口が膿んでいくだけ。



「彼氏は・・・・来てねぇみたいだな。」

「・・・・1人だよ。」
「ふっ、どうやら彼氏探しがうまくいかなかったみてぇだな。」



ぎく。
相変わらず景ちゃんは痛い所ついてくる。小さい頃から洞察力というかそういうものに景ちゃんは鋭い。
ソファーに座った景ちゃんは私が淹れた紅茶のカップに口をつける。



「そんなお前に朗報だ。」

「朗報?」

「あぁ。」



長い足を組みかえると、目を閉じる。



「見合いは破談になった。」

「え?」



その言葉に思わず固まると、景ちゃんは私を横目に見ながら続ける。



「先方から連絡があった。見合いの話はなかった事にしてくれと。」

「じゃあ・・・。」

「あぁ、お前の見合いの話はなしだ。」
「・・・・・。」

「何だ、もっと喜ぶと思ってたのに違うのか。」



景ちゃんはそう言ってまたカップに口を付ける。
あれから鳳さんに電話したが「現在使われていません」のアナウンス。残ったのは綺麗な字の小切手と、靴連れの痛みだけだ。
破談になったのに素直に喜べないのは、複雑なこの心のせいだ。



「ふっ、失恋でもしたか?」

「ち、違うよ!」

「だったら何でんな顔してんだよ。」



景ちゃんはそう言うと私のカップを置いて私の頭を乱暴に撫でた。
いつも、小さい頃から私が泣きそうになっていると必ずこうやって頭を撫でる。



「俺が知らないとでも思ってんのか?」

「・・・・。」

「小さい頃から泣くのが下手だよな、お前。」

「うっ・・・・。」



景ちゃんのそれが合図のように、涙が溢れ出した。いつも私は景ちゃんの前で泣いている気がする。
景ちゃんは黙ってそんな私を見つめながら、どこからか取り出したタオルを私の顔に押し付けた。


「・・・苦しい。」

「ひでぇ顔だ。」

「うっさい、悪かったね元からだよ。」

「はははっ、らしくなってきたじゃねーか碧。」



高笑いした景ちゃんは私の頭をぽんぽんと叩いて立ち上がった。



「今日は泊まってけ。んな顔じゃ帰れねぇだろ。」

「景ちゃん。」

「あーん?」

「・・・・ありがとう。」

「・・・今回に関しては俺にも非があるからな。」



そう言って背中を向けた景ちゃんは、そのまま部屋を出て行った。
ドアが閉まる音を聞いてタオルで顔を拭うと、鞄から封筒を取り出す。少しよれている封筒の中からあの小切手を取り出した。それを見てあの日去っていく彼の背中を思い出した。



「・・・・・さようなら。」



小さく私もつぶやいて、小切手をびりびりと破いた。
 
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