重い足取りで跡部家を後にして、街をぶらつく。目にとまった近くのベンチに座って鞄からスマホを取り出す。アドレス帳から彼の名前を探して通話ボタンを押そうとして、手が止まる。
そっか、彼が嘘だと言う事は私の嘘も彼は知っているという事だ。



「・・・・痛い。」



靴連れはまだ治ってなくて、ズキズキ痛む。靴を脱いだらまた赤くなっていた。



「碧さん。」



その声に驚いて顔を上げれば、宍戸さん・・・・鳳さんの姿が見えた。写真と同じ柔らかい笑顔で私のもとにやってきた。



「しし、どさん・・・・。」



スーツ姿の彼は私の顔を見るなり眉を少し下げる。



「顔色悪いね、大丈夫?」



そう言って私の顔を覗き込む彼の姿をちゃんと見れない。
正直、会いたくなかったというのが本音だ。無理やり笑顔を作る。



「大丈夫、です。」

「本当に?近くに車あるからよかったら送ってくよ。」

「本当に、大丈夫ですから。」

「・・・そっか。」



彼はそう言うとあの日のように私の隣に座った。
私は顔だけ彼の方を見る。



「会えてよかったよ、連絡しようと思ってたんだ。」

「私も、です。」

「そっか、嬉しいよ。」



柔らかい笑顔に、思わず視線を外した。
自分でもどうしたいのか分からず、赤くなった足を見つめる。



「まず、お礼を言いたかったんだ。」

「お礼?」

「うん、甥っ子がプレゼント喜んでくれたみたいで。本当にありがとう。」

「いえ、よかったです。」

「俺のピアノと一緒にあのピアノ弾いてたりするんだ。」

「・・・ピアノ、弾くんですね。」

「俺?」

「あ、はい。」

「少しね、人に聴かせるほどじゃないけど・・・・。」



そう言って照れたように笑った彼にまた胸が熱くなった。でもきっとこれは違う。
私はまた顔を上げると、彼と視線がぶつかった。
しかしすぐに私から視線を反らすと、今度は彼がその視線を落とす番だった。



「それから、君に謝らなくちゃいけない事があるんだ。」



そう言うと胸ポケットから手帳を取り出すと、間から封筒を取り出した。
そして私の手を取ってそれを私に握らせる。



「あ、あの・・・・・。」

「君の結婚相手に会いに行く約束、できなくなった。」

「・・・・・え?」



その言葉に思わず間抜けな声を出してしまった。彼の方を見つめれば、彼は真剣な表情で言葉を続ける。



「君は俺の願いを聞いてくれたのに、一方的で、ごめん。だから、あの時のクリーニング代。小切手だけど、受け取って。」

「・・・・・・・・。」

「本当に一方的で、ごめん。電話で伝えようと思ってたんだけど、直接言えてよかった。」



こっちを見ようともしないで言う彼に、私の手の中の封筒が小さな音を立てて歪む。
ナイフで切り裂かれたみたいに、胸に痛みが走しる。



「私が、・・・・だから、ですか?」

「え?」

「私が・・・・・・・宍戸さんの・・・鳳さんのお見合い相手だからですか?」

 
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