期限の2週間以内をあと3日に迫ったある日。景ちゃんに呼び出しをくらいました。理由は分かりきっている。いつ来ても大きすぎる裏門が目に入りため息をつく。父が景ちゃんの下で働いていた頃から景ちゃん家へ来る時はいつも裏門から来ていたので、それが今でも当たり前のようになっている。(まぁ裏門の方がお屋敷に近いってのもあるけども)
それにしても憂鬱である。宍戸さんに連絡は取っているけど・・・・。



「あー!呼び出したくせに何で出てこねぇんだよ、跡部はよ!」



見れば裏門に手をかけながら見知らぬ男性がそう叫んでいた。TシャツGパン姿に大きなバック。テニスバックだと分かったのは景ちゃんも似たようなのを持っていたからだ。
男性は短い頭をかくと、テニスバックを持ち直す。



「ったく、どっから入ったら・・・・。」

「あの・・・・。」

「あ?俺に何か用か?」



男性は振り返り私を見つめた。



「あの景ちゃん、じゃなかった、景吾坊ちゃまのお知り合いの方ですか?」

「坊ちゃまって・・・・お前もしかして跡部ん家のメイドか?」

「違います。」

「じゃあ彼女か?」

「違います!」

「あー、とりあえず、あいつと知り合いなんだな?」

「はい。」

「だったら話が早ぇ。」

「え?」

「跡部の所まで連れてってくれねぇか?」




顔パスで跡部家に入る私に後ろから付いて来る男性の視線が突き刺さる。そりゃメイドでもなく彼女でもない奴が顔パスでこんなお屋敷に入れるのは不思議だろうけども。
とりあえず景ちゃんの部屋までやってくると、ノックする前にドアが開いた。



「遅せぇ、何やって・・・・。」



言い掛けた景ちゃんの言葉が途中で途切れると、私と男性の姿を見て目を丸くさせた。



「何だお前ら、知り合いだったのか?」

「違げぇよ、俺がお前んとこまで連れてってもらうように頼んだんだよ。」

「そうか、まぁいい入れ。」



景ちゃんがそう言うと男性が私を追いこして部屋に入った。私もその後を追うように部屋に入る。そして入るなり男性は私を見つめた。



「で、メイドでも彼女でもねぇこいつは結局誰なんだ?」

「・・・俺の部下の娘だ。まぁ、何かと世話してやってる。」

「世話してやってるって、お前も大変だなこんな上司持ってよ。」

「あーん?」

「あははははは・・・。」



景ちゃんの知り合いにしてはなんというか、普通の人だな。そう言った男性の笑顔は爽やかだった。
男性に向き直ると軽く頭を下げる。



「朝比奈碧と言います。」

「ありがとな、俺は宍戸だ。宍戸亮。」

「え?」




その名前にどきりとした。同じ名前だ、同姓同名ってやつだ。いや、ありえなくはない、同姓同名なんて、たくさん・・・・・。



「名前聞いて思い出した。長太郎の見合い相手ってお前か。」

「ちょう、たろう?」

「鳳長太郎。お前が見合いする予定だった奴の名前だ。」

「俺の、まぁ跡部もだけど、中学からの後輩だ。」

「もしかしてテニス部の?」

「あぁ。」

「お前、見合い相手の名前も顔も知らないのか?」

「鳳は知ってる。」



大きなソファーに座った景ちゃんのその一言に、思わず景ちゃんにつめよる。



「はぁ?何で!?私知らないのに」

「知ったら逃げるだろ、碧。」

「そう、だけど・・・・。」

「だから向こうに先に写真送って、お前には直に鳳に会わせる予定だったんだ。」

「だからって!」

「まぁ、落ち着けよ。用は顔も知らない相手と見合いしたくない、って事だろ?」



その通りなんです!世の中の宍戸さんは優しい人なんだな。
私が頷くと、男性・宍戸さんはテニスバックを肩から下ろした。



「さっき朝比奈には世話になったからな、俺が写真見せてやるよ。これならフェアだろ?」

「何で持ってんだよ。」

「この前飲んだ時撮った写真貰って入れっぱなしなんだよ。」



宍戸さんはそう言いながらテニスバックを漁る。そして一枚の写真を取り出した。



「ほら、これだ。」



受け取った写真の真ん中には景ちゃんが。男性・宍戸さんがトントンと指差す所を見て、心臓が止まるかと思った。



「これ、これが鳳長太郎だ。」



そこに写っていたのは、あの宍戸さんだった。柔らかい笑顔は私が知っているものだった。



「・・・・どうした?」

「し、宍戸さん・・・・。」

「ん?俺はこの隣だ。長太郎はこいつ。いい奴だぜ、長太郎は。」

「おい、大丈夫か?顔色が悪い。」



景ちゃんが立ち上がって私の手から写真を取り上げ、私の顔を覗き込んだ。ぐるぐると写真の宍戸さん・・・・鳳さんが回ってなんだか気持ち悪い。



「ごめん景ちゃん、今日はもう、帰るね。」

「だったら送る。車呼ぶから待って、」

「大丈夫、1人で帰れるよ。」



私は宍戸さんにもう一度頭を下げると、景ちゃんの部屋を後にした。



「大丈夫か、あいつ?」

「・・・・・。」

 
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