大きめの紙袋をぶら下げてお店から出てきた宍戸さんは、私の姿を見て微笑んだ。
百貨店をいろいろと巡り、宍戸さんが甥っ子さんに買ったのは小さなピアノだった。おもちゃなんだけど結構本格的な音がするもの(宍戸さん談)らしい。私もその小さな可愛さに惹かれそれを勧めた。



「ありがとう、君のおかげで最高のプレゼントが買えたよ。」

「いや、私は特になにも・・・・。」

「ううん、碧さんが一緒に選んでくれたからだよ。」



いきなり名前を呼ばれてそんな事をこんな人に言われて照れないはずない。私は顔に熱が集まるのを感じる。



「あぁ、ごめん。名前で呼ばれるの嫌だった?」

「い、いえ、嫌じゃないです。」

「そっかよかった。」



そうだよね、景ちゃんに会う時にその方がいいよね。うん、付き合ってる風に見せるならそれが自然だよね、うん。
私は自分をそう納得させると、気づかれないように息をついた。



「私からもよろしく言っていたって甥っ子さんに伝えておいて下さい。」

「うん、伝えておくよ。」



宍戸さんはそう言うと私の隣にやってきた。そして柔らかい笑みを浮かべたまま紙袋を持つ反対の手で私の肩に手を置いた。



「話は変わるけど。」

「はい。」

「左足、大丈夫?」

「え?」

「靴擦れかな?さっきから引きずってるでしょ?」



その言葉に驚く間もなく、宍戸さんに手を取られた。そして近くの木陰のベンチに連れていかれると、私をベンチに座らせた。
正直彼の言う通りで、履き慣れてないパンプスのためか、親指の付け根辺りが当たって痛い。しかしそれを悟られまいと普通にしていたつもりだったのに、気づかれるとは・・・・。



「俺絆創膏持ってるから靴脱いで。」

「いや、あの、大丈夫です。」

「それとも俺が脱がした方がいい?」

「・・・じ、自分で脱ぎます。」



悪戯っぽくそう言って笑った宍戸さんに私は完敗した気持ちで自分で靴を脱いだ。
案の定左足の親指の付け根は赤くなっている。



「・・・ごめんね。」

「え、何で謝るんですか?」

「俺がいろいろ歩かせたから。」

「いや好きで歩いてたし、そもそも履き慣れてない靴履いてきた私が悪いので。」

「絆創膏はったらすこしはましになると思うから。」



宍戸さんはそう言うと絆創膏を取り出し包装をめくった。「自分ではります!」と言う間もなく、彼は私の足に軽く触れると赤くなった箇所に絆創膏をはった。
その姿はシンデレラにガラスの靴を履かせる王子だ。



「あ、ありがとうございます。」

「どういたしまして。」



宍戸さんはそう言ってまた笑うと、私の隣に座った。
 
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