「君の方は?」
「え!?」
考えを読まれていたかのようなタイミングで男性がそう言った。私は口をぱくぱくさせて言葉を必死に紡ぎだす。
「あの、ですね・・・・・実は私借金がありまして・・・。」
「え?」
「兄弟も多いし、家は火の車なんで、それを救うべく今度相手先の社長の息子とお見合いをする事になったんです・・・。」
・・・我ながらよくもまぁこんなにペラペラと嘘が出てくるなぁと感心する。
勿論借金もしていないし、一人っ子だ。
「家族の為だって分かってはいるんですけど、やっぱり嫌で逃げ出してきたんです・・・・・。」
「・・・・・。」
「で、でもお見合いをすっぽかしちゃったんで、相手も怒ってるみたいで。また今度会う事になってて・・・・。」
「・・・・・・。」
私の作り話を真剣な表情で聞いてくれる男性。怒っている相手はお見合いの相手じゃなくて景ちゃんだ。
「それで、その、お願いなんですけど・・・・・。」
「うん。」
「・・・・・その時に、その、一緒に行ってもらえませんか!?」
言っちゃったぁぁぁぁ!!物凄く恥ずかしい、告白をしているぐらい恥ずかしい。
案の定男性も目を丸くさせている。
「いや、あの、か、彼氏役として一緒に行って欲しいんです!彼氏いるんだ〜、ってなれば相手も納得すると思うんで!!」
半ばしどろもどろになりながらの説明。
あぁ、やっぱり駄目だったか・・・・こんな話、嘘っぽい話信じてもらう方が・・・。
「分かった。」
「え?」
「俺でよかったら、彼氏役引き受けるよ。」
・・・・・・・・し、信じてくれた!?
男性はそう言うと私の手を握って、「大変だね」と言った。今度は私が目を丸くさせる方だった。しばらくしてから手を握り返すと、私を見つめる瞳が優しく細くなった。
「あの・・・・・。」
「ん?」
「あ、ありがとうございます。」
「うん、よろしくね。」
そう言って笑った男性に少しドキドキした。
男性は手を離すと、また胸ポケットから手帳を取り出すと、何かを書いてちぎりそれを私に差し出した。
「君の協力者になるって事はこれから連絡するかもしれないだろ?だから、俺の携帯の番号。」
「あ、じゃぁ私も書きます。」
「お願いします。」
紙を受け取るとベット横のメモ帳に私も携帯の番号を書いた。あ、協力してもらうんだから名前ぐらいは書かないと。名前は嘘なくちゃんと自分の名前を書く。
「はい、お願いします。」
「ありがとう・・・・朝比奈碧さん。いい名前だね。」
「あ、ありがとうございます・・・・・。あの、お名前・・・・。」
わぁ、優しい男性はそういう事もさらりと言ってしまうのか。
私はなんだか照れながらも、男性にそう尋ねた。
「名前?」
「あぁ、俺はお、・・・・・・・・・・・。」
「お?」
男性はそう言うと急に固まった。そして一瞬だけ私から視線を反らすと今までとは少し違う笑顔を浮かべた。
「お、甥っ子が昨日から君の事心配してたなーって急に思い出してね・・・あはは、あははは・・・・。」
「はぁ・・・。」
「あ、名前だったね!名前、名前・・・・。」
男性はそう言うと急に立ち上がった。そして私に背を向けるが、すぐにくるっとまた私に向き直った。
「し、宍戸亮、って言います。」
「宍戸さん。」
「はい・・・・。」
そう言って笑うと男性はまた私の前に手を出してきた。私も立ち上がると男性、宍戸さんの手を握り返した。
「よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしく。」
こうして私と宍戸さんとの協定が結ばれたのであった。
← →