そして約束の放課後。 私はあの手紙の通り学校裏の砂浜に向かう。
朝からサエには会っていない。寝坊したらしく朝練には来なかったし、移動教室の時も昼休みの時も会わなかった。でもそれで良かったと思ったりもしている。サエに合ったら会ったでこの事がバレるに違いない。



『サエは瑠璃に関しては過保護ですから。』



樹っちゃんの言葉を思い出した。しかしあれは過保護と言うよりただからかっているだけだ。あの時もあの時も・・・私の恋路はサエに阻まれていると言っても過言ではない気がしてきた。
・・・・というか何でこんな時までサエの事を考えているのか。そうだ、今はあの手紙だ。そのためにここにいるんだから。
名前が書かれてなかったから誰なのかは全く分からない。サエのいたずらかとも思ったけど、筆跡がサエのではなかった。いやサエじゃなくてもいたずらかもしれないし・・・。
考えながら歩いているといつの間にか砂浜に着いていた。そこには先客が。波打ち際にしゃがみこんだ学ランを着た誰か。よーく見るとその背中に見覚えがある。というか、いつも見ている背中だ。



「・・・・サエ。」


ぽつりと呟いた私にサエはゆっくりと振り返った。手にはいつものスコップ。足元には砂の山。



「やぁ、遅かったね。」



サエはそう言うと手を止めてこっちを見た。
もしかしてあの手紙はやっぱりサエが?頭にクエスチョンマークを浮かべるとサエがいつものように笑う。



「瑠璃、D組の木村って知ってる?」

「木村君?あの陸上部の?」

「そう、その木村。」

「木村君がどうかしたの?」

「あぁ、彼だみたいだよ。君にラブレター送ったの。」



サエはそう言いながらまた手を動かし始めた。スコップから流れ落ちる砂が更に山になる。



「何で、知って、」

「さっきここに来たから。少し話ししたら帰ってったよ。」



私はため息をつくと、サエに近づく。



「・・・話って?」

「『君じゃ瑠璃にはダメだ』って。」



サエは私を見ずにそう言うと砂の山にザクとスコップを突き刺した。そして少しずつ穴を掘っていく。
いつも見慣れてるはずの光景が、なんだか違うものに見える。


「なに、それ・・・・・。」

「言葉の通り。木村じゃ役不足だ。」

「意味、わかんない・・・・大体サエには、関係ないじゃん。」



この男は何を言っているんだろう?
近くに聞こえるはずの波の音をなんだか遠くに感じていると、サエの手がまた止まった。砂がサラサラと流れ落ちて折角掘った穴を塞いでいく。



「関係なくはないだろ。」

「関係ないよ!何でそうやって、」

「じゃあ瑠璃は木村と付き合うつもりなの?」

「それは・・・あんまり話した事ないから分からないけど、」

「なら尚更ダメだ。悪いことは言わない。やめておいたほうがいい。」

「な、何でサエは、いつもそう、」

「それは、」



サエは言葉を切ると私の腕を掴んだ。そしてゆっくり立ち上がる。
穴は完全に塞がり、砂の山の端が波に攫われ始める。



「・・・俺が瑠璃を好きだから。」



そう言ったサエは私が初めてみる顔をしていた。怒っているような、でも泣いているような。
大きな波がサエと私、そして砂の山を攫っていく。
私はそんなサエが見ていれなくなって、俯くとサエの腕を振り払った。



「・・・・いっつもそうやってからかって、面白い?」

「瑠璃、俺は、」

「もういいよ。」



口からあっさり出てきたその言葉に、自分でも驚いた。目の奥がツンとなる。



「もういいよ、サエ。」

「何が?」

「もう私に過保護にならなくていいよ。」

「・・・・・・。」



驚くように目を丸くしたサエを見つめた。
波がまた足を攫って、靴の中まで濡れてしまっている。サエもそうだ。制服の裾も濡れてしまっている。
サエはゆっくりと目を細めると、何か言いたそうに口を開いた。しかしそこから言葉は出ずにまた、口を紡いだ。そして真剣な顔でまっすぐ私を見た。



「・・・分かった。」

「・・・・。」

「もう、何も言わないし何も見ない。瑠璃には、関わらない。」



サエはそう言うと私の横を通り過ぎて行った。
砂の山が半分まで波にのまれて山が崩れる。ふり返る事もできずに私はだだそれを眺める事しかできない。気づいたら泣いているのは私の方で、ただただ、波が脚を濡らすだけだった。


  
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