大切なものBOXというものがあった。あったと過去形なのは別に無くなったわけじゃなく、現在その箱がどこにあるか分からないからである。おそらく押し入れの中にあると思われる。



「瑠璃ー。」



その押し入れの中をごそごそと探していると、母の声。要件は分かっている。私の進路の事だ。



『瑠璃、高校はもう決めたの?』

『うーん、まぁ・・・・。』



我が家は呉服屋である。母の代で三代目だ。成人式から浴衣、七五三まで家族で経営している。なので着付けは小学六年の時には完璧にできるようなった。というのは今は亡き祖母が小さい頃からいろいろ教わったためだ。「お前は四代目なんだから」それが祖母の口癖だった。だから私もこの店を継ぐんだと何の疑問もなく思っていた。



『まだちょっと考えてる。被服科のある高校は近くにないから・・・。』

『その事なんだけど、別に無理にその道に進まないでもいいのよ?』



母の口からその言葉が出るとは思わなかった。
唖然とする私をよそに母はお茶をすすった。まさか母からそんな言葉を言われるとは思わなかった。




「瑠璃ー、聞いてるの!?」



それ以来母を避けている。別に言われてショックを受けたわけではない。受けたわけではないのだ。



「大掃除?」



聞き慣れた声がして手を止める。そして振り返るとドアの前にサエが立っていた。



「・・・びっくりしたぁ。」

「おばさんが呼んでたの気づかなかった?」

「あー、そうだったんだ。」

「喧嘩でもしたの?」

「まぁ・・・そんな感じ。」



散らかったものを端に寄せながらサエの元に行く。
サエは部屋をぐるっと眺めながら、部屋のドアを閉める。



「こんな時期に大掃除?」

「いや、ちょっと探し物。」



近くの箱を足で橋に寄せると、クッションを二つ並べて座る。そして座るように促すと、サエはクッションを抱きかかえるようにして座る。



「何探してるの?」

「大切なものBOX。」

「大切なものBOX?」

「うん。文字通り大切なものを入れた箱なんだけど・・・。」

「ふーん。」



押し入れの中に入れたはずだったのに見当たらない。捨てた記憶もないのだからどこかにあるはずなのに。



「で、サエはどうしたの?」

「姉さんから映画のチケット貰ったから、一緒にどうかな、と思って。これ見たいって言ってただろ?」



サエはそう言ってどこからか映画のチケットを取り出した。
それは確かに私が見たいと思っていた映画だ。童話がベースとなっている映画だ。



「行きたい!今日はこんなんだから・・・・来週でいい?」

「あぁ。」



サエはそう言って私にチケットを渡すと、おもむろに小指を差し出した。私は一瞬ぽかんとなったが、すぐにサエの小指に自分の小指を絡めた。
サエはこういうのが大好きだったな、昔から。



「嘘付いたらウニいっぱい奢る。」

「ちょっと、針千本飲ますでしょうそこは。」

「針千本よりウニの方が嬉しいだろ?」

「そりゃ、そうだけど・・・・。」

「あぁー、楽しみだな。」



サエは小指を離すと、にっこり笑ってそう言った。
  
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