「瑠璃。」


名前を呼ばれたと思ったらサエがいた。
昨日作った砂のお城は波にさらわれてほとんど原型を留めていなかった。



「あっという間になくなっちゃった。」

「昨日は波が高かったからなぁ。」



そう言いながらサエは私の隣にやってきた。どうやら私の鞄を持ってきてくれたようで、ブロックの上にサエの鞄と私の鞄が置いてある。



「そうそう、プレゼントありがとう、おいしかったよスイートポテト。」

「それはよかった。」



昨日はサエの誕生日だった。砂のお城を作成した後サエにプレゼントを渡すのが毎年の恒例になっていた。今年はスイートポテト。
毎年誕生日には沢山のプレゼントをもらっているサエに配慮して、毎年残らないもの、消え物を贈るようにしている。



「途中で姉さんに取られそうになったけど、なんとか死守したよ。」

「上げればいいのに。」

「嫌だよ、だって瑠璃が俺の為に作ってくれたモノなんだから。」



サラッとそう言う事を言うサエは本当に昔と変わらない。変わった事と言えばクラスが違う事とテニスをあんまりしなくなったと言う事だ。
そう、私たち3年生は部活を引退。そして、受験が待っている。



「生徒会の仕事は?」

「ほとんどないよ、後は引き継ぎだけ。」

「そっか。」



潮風がスカートと髪を揺らす。いつも聞いている波音なのになんだか違って聞こえるのは、季節が夏から秋へと変わっていっているからなのかもしれない。



「そうだ、進路調査表まだ出してないんだって?」

「何で違うクラスのサエが知ってるの?」

「樹っちゃんに聞いた。」

「・・・・サエはもう出したの?」

「あぁ、六角高校。ここから近いし、みんな行くだろうし。」



サエはそう言うと立ち上がって制服の砂を払った。そして波打ち際へと歩いていく。
六角高校はテニス部OB達が多く通う高校でもある。そしてサエの言った通りここから近い。バネや樹っちゃんもそこに行くと言っていた。




「なんか・・・・意外。」

「どうして?」

「だってサエなら、もっと頭のいい高校だって行けるのに。」



サエはまさに文武両道。成績はいつも上位だし、頼まれた剣道の試合だってあっさりと勝利していたし。そんなサエなら推薦でもっと違う所だって行けるはずだ。
私の言葉にサエは振り返る。



「なるほど、でも考えた事もなかったな。」

「どうして?」

「頭のいい高校行くよりも、みんなとまたテニスできる方がいいじゃないか。」



微笑みながら夕日に背を向けて笑うサエ。私もそう思っている。思っているのに進路調査表に書けないのは・・・・何でなのだろう。
そう思いながら私も立ち上がると、サエが「ほら」と言って私に何かを投げた。思わずキャッチしたそれは、小さな貝殻だった。



「まぁ何か書いておけば大丈夫じゃない?」

「進路調査表の事?」

「そうそう。」

「サエって結構適当だよね。」

「そんな事ないよ。」

「そんな事ある。」



戻ってきたサエの背中をバシバシ叩くと、反撃と言わんばかりに頭を撫でられた。
ぐちゃぐちゃにされた髪越しに見たサエになんだかほっとしてしまった。引退してからみんなで遊ぶ時間が減った。そんな中でサエとは当たり前のように一緒に帰っている。
高校にいってこのままでいられる術も、進路調査表も、私にはまだ空欄のままだ。
私は小さな貝殻をポケットに仕舞うと、乱れた髪を整え始めた。
  
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