そう、あれは確かサエが引っ越してきてすぐ。
私とサエが初めて会った時の事だ。



「どうしたの?」

「・・・・。」

「どうして泣いてるの?」

「・・・ぐすっ。」



暗くなった砂浜で、泣いていた私に同い年ぐらいの男の子が声をかけてきた。
彼は泣いている私の隣に座ると、私の顔を覗き込んだ。



「あっ、もしかして迷子?」

「・・・・違う。」

「じゃあどうして泣いているの?」

「・・・・あれ。」



顔を上げて夜空を指差す。指したのは空に散らばる無数の星達。
男の子は私の指の先を追うと、ぽかんとした表情を浮かべた。



「あれって・・・・星?」

「・・・うん。みんな、お星は取れないって。」

「うん。」

「取れるって言ったら笑われたの。」

「そっか。」

「でもおばあちゃんが、時々お星は落ちてくるって言ってたから。」



おばあちゃんっ子だった私はおばあちゃんが口にしていたその言葉を小さい頃から聞いていた。星は太陽や月より輝かないけど、確かにそこにあると。そしてその星達も時々疲れたりして落ちてくると。おばあちゃんはその落ちてきた星をおじいちゃんから貰ったと言っていた。
それをバネや双子に言ったら笑われた。「星は取れないし、落ちても来ない。」と。
きっと隣にいる男の子もそうだと思って目をこすりながら視線を隣に向ければ、さっきまでぽかんとしていた男の子は優しく微笑んでいた。




「うん、そうだね。」

「え?」

「俺も取ったことあるよ、星。」

「本当?」



男の子は頷くと「これくらい」と言って指で砂に星を書いた。
砂に描かれた小さな星たち。


「うん。」

「どんな感じ?」

「うーん、美味しかったよ。」

「食べれるの?」

「その時のはね。」

「食べられないお星もあるの?」

「そうみたいだね。」



おばあちゃんから聞いた事もないような星の話をする男の子に、いつの間にか私の涙はすっかり乾いていた。
男の子からまた夜空に視線を戻す。



「・・・・私も取れるかなぁ、お星。」

「今日ならきっと取れるよ。」

「今日なら?」

「今日は“りゅうせいぐんだ”から。」

「りゅうせいぐん?」

「星が沢山落ちてくる日なんだって。あっ、ほら!」

「わぁ・・・。」



男の子がそう言うのが合図だったかのように、夜空から星がすーっと流れた。それがあちらこちらから降り注いでくる。
思わず私が立ち上がると、男の子も立ち上がって空に手を伸ばした。そして「えいっ」っと言ってジャンプをすると、両手で何かを掴む。
男の子は不思議そうにそれを見ていた私にその両手を差し出した。



「ほら、さっそく取れたよ。」

「本当に?」

「うん、ほら。」



男の子はそう行ってゆっくり両手を開いた。するとそこには淡く光る星があった。
手のひらにすっぽりと収まるそれに、見惚れる。



「わぁ・・・本当にお星様だ!」

「残念だけどこれは食べられないやつだね。」

「分かるんだ、すごいね。」



男の子はまた笑うと、私の手のひらにその星をのせた。手のひらの中でキラキラと輝く星。



「君にあげるよ。」

「いいの?」

「うん。」

「ありがとう。」

「どういたしまして。」



私は男の子にお礼を言うと手のひらの星に見惚れる。もしかしたらこの男の子は幼稚園にあった絵本に出てくる星の王子様なのかもしれない。その時の私は夜空を見上げる男の子の横顔を見ながら、本気でそう思ったのだった。
まぁ、その後すぐに一緒の小学校に入学して同じクラスになって男の子、佐伯虎次郎は星の王子様でもなんでもないと気づいたんだけどね。それがサエと私の最初の記念日だった。

  
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