そして私は高校生になった。
私はサエに言ったとおり市外の被服科がある高校に入学。サエや他のみんなは六角高校に進んだ。
卒業までの間、そりゃもうめいっぱいみんなと遊んだ。勿論サエとも。あの後映画も何回も行ったし、遊園地とかプールにも二人で言った。亮に「付き合いだしたの?」と聞かれたが無視した。だって私とサエは何も変わっていないから。



「ねぇ、あの人かっこよくない?」

「え、どこ?」

「ほら、あのコンビニの前にいる人。」



下校中クラスメイト2人がとある人物を見ながらそう言った。
それは紛れもなく知っている人物だった。



「学ラン着てるし、見たところ同い年ぐらいじゃない?もしくは一個上とか。」

「えー、意外と年下かもよ?」

「あー、当たってるよ。」

「え、雨宮さんの知り合い?」

「あ、もしかして彼氏?」

「嘘、マジで!?」



・・・変わったとしたら、私の受け答えだけかもしれない。



「まぁ・・・・うん、そんな感じかな。」




「おかえり、瑠璃。」

「・・・・・サエ。」



とある人物とはサエだった。サエはやってきた私の手から鞄を奪うと、止めてあった自転車のかごに入れた。
そして遠くから私を見つめるクラスメイト達に手を振ると、自転車のストッパーを外して歩き出した。



「一緒に帰らなくてよかったのか?」

「・・・自転車で来ておいてよく言うよ。」




入学して2か月。サエは時々私をこうして迎えにやってくる。以前校門前に来られた時はちょっとした騒ぎになって流石に他人の振りをしたけど、それからはこうやって途中で待っている事が多くなった。



「はは、だって瑠璃に会いたくなったから。」

「はいはい。」

「本当だよ?だから部活終わって急いできた。」



部活終わりで疲れているであろうに、サエはいつも笑顔だ。サエが高校に入ってもテニスを続けているのを知っているのは樹っちゃんを始めとしてみんなからいろいろと情報を貰っているからだ。
サエからは、「今日は天気がいい」とか「あそこのコンビニのアイスが」とかで、学校の話はあまり聞かない。(まぁ相変わらずラブレターは貰っているらしいけど)
だから私もあまり学校の事は話さない。本当にたわいもない事を帰りながら話している。



「ねぇ、サエ。」

「何?」



海岸線が見えてきた所で、私は少し前を歩くサエの背中に声をかけた。
そして立ち止まって空を指差す。



「あれ、取って。」

「あれって・・・・星?」

「そう。」



暗くなった空には星がキラキラと輝いている。サエと私が最初に会った時と似ていた。



「前に取ってくれたでしょ、星。」

「あぁ、あれか・・・・・・うーん、でも今日は流星群じゃないからな。」



サエはそう言うと自転車を路肩に止めた。そして腕を組んで考え始めた。
手を伸ばせば届きそうだけど、届かない。
私は困っているサエを見て亮みたいにクスクス笑うと、サエの腕をぽんぽんと叩いた。



「ごめん、冗談。星が綺麗だったから、言ってみただけ。」

「・・・・・星のかけらなら、取れるかもしれない。」



私の冗談にサエは大真面目な顔でそう言った。そして左手を空に伸ばすと、星を掴んだ。・・・ように見えた。サエはそのままゆっくりと手を私の前に持ってくると、私の右手を掴んだ。そして何かを右手に握らせる。



「残念、食べられないやつだ。」



ゆっくり右手を開くと、そこには星のかけらがあった。正確には小さな星がたくさんついた銀色の指輪がそこにあった。
サエはそれをつまむと、またゆっくり私の右手の薬指にはめた。



「星のかけらで作った指輪、気に入った?」

「・・・・・・手品?」

「欲しいって言っただろ、星。」



サエはダビデもびっくりなダジャレ交じりにそう言うと、私の右を取って星の指輪にキスをした。本当にその姿は王子様そのもの。



「・・・・・さ、サエは恥ずかしい事を平気でやるよね。」

「ありがとう、君にだけだよ。」

「前にも聞いたな、その台詞・・・・。」

「本当だって。」



私はサエのその言葉に呆れてため息を付いた。しかし星の指輪は素直に嬉しい。私がサエの事好きって気づいてから初めてちゃんと貰ったもののような気がする。
勿論サエには絶対に言わないけど。



「ありがとう、大切にします。」

「嬉しいよ。それで左手の予約にもなるし。」

「どう言う事?」

「虫除け、って事。」



サエはそう言うと私の手を離した。そして自転車にまたがる。



「瑠璃、帰ろう。早く帰らないと俺が叱られる。」

「はーい。」



私は素直にそう言うと自転車の後ろに座った。そしてサエの腰を掴んで背中におでこを付ける。温かいその背中はやっぱり太陽の匂いがする。



「・・・いつもありがとう。好きだよ。」

「え、何か言った?」

「・・・お腹すいたなぁー、って言ったの。」



聞こえているんだかいないのだか、私がそう言うとサエが声を上げて笑った。そして自転車がゆっくりと動き出す。
満天の星空と潮風を受けながらサエとの放課後デートも悪くないかもしれない。



「ありがとう、俺も大好きだよ。」

「!!??」



・・・・とりあえずサエの背中をバシバシ叩くと、自転車がちょっとよろけた。
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