大切なものBOXが見つかった。私の部屋の押し入れにあるものだと思ったら、祖母の部屋の押し入れに入っていた。 それに使ったお菓子の缶はほこりはかぶっていたものの、思ったよりも綺麗なままだった。久しぶりに開けた大切なものBOXは、なんだか懐かしい匂いがした。 「食べられる星ってさ、今考えたらあれ金平糖の事でしょ?」 サエと私はサエが好きな磯に来ていた。辺りはすっかり薄暗くなってきているが、海に沈む夕日はすごく綺麗だ。キラキラと輝く海を背景に先を歩くサエが振り返る。 「え?」 「ほら、サエと初めて会った時。」 「あぁ、あの時ね。」 風になびくサエの髪もキラキラと夕日に輝いて見える。ぼんやりとそう思っているとサエがいつもの笑顔を浮かべた。 「それにあの時取ってくれた星も、あれクリスマスのオーナメントでしょ?」 「あ、バレた?」 「昨日見てまじまじとそう思った。」 サエと初めて会った時に貰った星。大切なものBOX中にあったそれは紛れもなく紐が付いたクリスマスのオーナメントだった。 「ということは、大切なものBOX見つかったんだな。」 「うん。」 「他に何入ってたの?」 「前に言った剣太郎から貰った手紙とか。」 「とか、って事は俺のもいくつか入ってた?」 「それは・・・わっ!」 言いながら私は磯のくぼみに足を取られる。そんな私を支えたのはサエだった。私の両手をとりながら「大丈夫?」と呟く。・・・思えばいつもそうだ。私が転びそうになると決まってサエが手を取って支えている。 「瑠璃?」 「・・・サエ。」 「何?」 「・・・ごめんね。」 「・・・うん。」 サエは「何が?」とは言わなかった。ただ握る手の力を強めた。顔を上げればいつもより少し柔らかいサエの笑顔。その光に包まれる顔を見て視界が滲む。 「私サエに、昔から甘えてばっかりだ。」 「ハハ、今日は素直だな。」 「・・・真剣な話してるの。」 「これでも真剣だよ。」 波の音がやけに遠くに聞こえる。気が付けばサエの後ろに星も見え始めた。あれはきっと一番星だ。 「俺もだよ。俺も君に甘えてる。」 「嘘だ、」 「嘘じゃないよ。だからお互い様だ。」 サエがそう言って綺麗に笑うものだから、私はサエの肩に顔を押し付けた。サエはいつもお日様の匂いがする。そんな事にも胸が苦しくなって、涙が出る。 「私、市外の高校に行く。」 「・・・・うん、知ってる。」 「これ以上甘えてたら、サエに迷惑、かかる、」 そう言いかけた所で、サエが左手を話して私の肩に手を回した。よく分からなかったサエへの気持ちが今ならはっきり分かる。ずっと前から一番の幼なじみで、大切な人で、そして。好きな人だ。 今更気づくなんてバカみたいだ。なんならこのまま高校にこの想いも連れて行ってしまいたかった。でももう無理だ。顔を上げればサエの肩越しに一番星が見える。さっきよりも光がはっきりと見える。 「言ったろ?俺は王子ってキャラじゃないって。」 「サエ・・・。」 「行かないで、って引き留める言葉も、行っておいで、っていう背中を押す言葉もどっちも出てこない。」 そう言ったサエの声は少し苦しそうだった。何か言いたいのに言葉が何も出てこなくて、代わりに私はサエの背中に右手を回した。 「瑠璃。」 「・・・・・何?」 「好きだよ。」 「・・・・・・。」 「本当の王子ならもっと気のきいた言葉が出そうだけど、今俺が言える言葉は、これだけだ。」 小さくそう言ったサエを見れば、サエは泣いていた。長い下睫毛からを伝ってキラキラ光る涙が彼の頬を濡らす。夕日が輝かせているみたいで、まるで涙があの星のようだ。その姿は間違いなく王子そのもの。あの頃からサエはやっぱり星の王子様だ。 「・・・サエはやっぱり王子だよ。」 「・・・・真剣な話してるんだけど。」 「これでも真剣だよ?」 そのままサエを見上げれば、サエはちょっと拗ねたような表情で私とおでこを付けた。一気に近くなった距離だけれど今日は突き飛ばさない。代わりに笑ったら、鼻の頭にキスされた。 「・・・・・・・。」 「市外って言ったって、会えなくなるわけじゃない。なんなら、俺が自転車で迎えに行ってもいいよ。」 「・・・・遠慮します。」 「えー。」 そう言いながら笑ったサエはいつものサエだった。私はサエから離れると、今だ繋いでいる左手に力をこめた。 「サエ。」 「ん?」 「・・・・・何でもないよ、王子様。」 「は?」 涙を袖で拭ったサエがそう言ってポカンとしている。私は声を上げて笑うと、すっかり薄暗くなった空に輝く星を見上げた。 少なくても卒業まではサエの側にいられますように。そう星に願った。 ← → |