「結構面白かったな。」


サエはそう言いながら今見てきた映画のパンフレットをパラパラとめくる。
検査も終わりまったく異常がなかったサエは早々と退院。あの後お見舞いに駆けつけたみんなに「あれだけ飛んだのにタイヤがパンクだけですんだなんて最近の自転車って凄いんだな」と言った時は正直呆れた。あの時の私の涙を返せ。その上退院してすぐにテニスをしようとするものだから、みんな必死に止めた。暫くは安静に、と剣太郎が部長命令をサエに出しす。そしてそんなサエを監視するために数日私がお目付役をする事になった。
なのでサエとまたあの私が見たかった映画を見る事になった。



「・・・そう?」

「あぁ、流石賞を取っただけはある。」



バネと見た時よりも人が多かった。何でも有名な世界的かな映画の賞を取ったらしい。



「王子役の俳優の演技がよかったな、ね瑠璃?」

「まぁ・・・うん。」



サエはそう言うとカフェオレに口を付けた。・・・サエとそういう好きな所が似ている事が多々ある。なんとも不思議だが別にサエや私が合わせようとしているのではなく合うのだ。本当不思議・・・・。そう思って頼んでいたケーキをほおばる。



「王子役の俳優は主演男優賞も取ったんだ。へぇー、凄いなぁ。」

「サエだってロミオで特別賞貰ってたじゃない。」

「・・・また古い話を持ってくるね。」



苦笑いを浮かべたサエはパンフレットを机の上に置いた。そして未だ絆創膏のはってあるおでこを押さえる。
サエは去年のお花見でロミオを演じた。その異様なはまり役に特別賞が贈られたのだ。



「別に古くはないでしょ、去年なんだから。」

「なんだかその話をされるとむず痒くて・・・・。」

「女子達は喜んでたじゃない。キャーキャー言ってたし。」

「嬉しいけど、俺は王子ってキャラじゃないからね。」



その言葉に私は持っていたフォークをお皿の上に置いた。



「じゃあ王子じゃないサエは何?」

「強いて言うなら、俺はこれかな。」



サエはそう言うとまたパンフレットを開き、キャラクターの一覧を開いた。そして指し示した所には赤ずきんの猟師。映画ではヒロインを導いてそして裏切る役だったはずだ。
「サエが、猟師?」

「そう。」

「何で?」

「・・・どっち着かず、って所が、かな。」



サエはそう言うとパンフレットを鞄にしまった。
私はまたフォークを手にすると、ケーキに突き刺す。



「・・・・ふーん。」

「女王の命にも従えず、白雪姫も助けない。そんな奴だよ、俺は。」

「・・・・。」

「あ、そのケーキ美味しい?ちょっと頂戴。」



サエはそう言っていつものように笑うと、私のケーキに手を伸ばした。
毎回思うけれど、サエは話を逸らすのがうまい。それが合図のように以上話を広げる事も毎回ない。サエが話を切り替えるという事はサエが止まれの標識を出しているという事だ。私はぼんやりとその標識を感じながらケーキのお皿をサエに差し出す。



「あぁ、甘すぎないで美味しいな、このケーキ。」

「それはよかった。」

「俺も頼もう。すみませーん!」



手を挙げたサエにウェイターのお姉さんが近寄ってきた。サエは私とは違うケーキを注文すると、私のケーキのお皿を戻した。



「何頼んだの?」
「イチゴタルト。」

「ダビデが喜びそう。」

「確かに。」



そう言って思わず2人で笑い出してしまった。
こんな何気ない事で笑って一緒に映画を見たのに、バネと見たときより楽しいと思ってしまうのはきっと私の気持ちが変わったからなのだろう。

  
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