「佐伯さんなら、305号室ですね。」

「ありがとうございます!」



六角病院に付くと真っ先に受付に向かった。息を切らして言った私に受付のお姉さんは顔色一つ変えずに笑顔で私にそう言った。
305号室。
インプットするように呟くとお礼を言いながら言われた病室に向かった。エレベーターの上向きのボタンを押したが、しばらく一階には着きそうにない。私は近くにあった階段に向かった。
自慢じゃないが足腰には自信がある。あの男テニの奴らにはそりゃあ及ばないけれど、体育の成績はまあまあいい方だ。しかしこれまでずっと走ってきているので、苦しい。しかし立ち止まろうなんて気もなかった。
そうこうしているうちに三階に着いた。目で305号室を発見すると、そのドアを勢いよく開いた。
しかしそこには誰もいなかった。
ガランとした病室。細く開いた窓からの風がベッドを囲うカーテンを揺らす。乱れる息を整いながら、私はゆっくりそのカーテンをめくった。そこにはピンと張ったベッドのシーツ。そしてキチンと揃えられたスリッパが一足。そして、畳まれた部屋着が。
それを見て途端に私はその場に崩れ落ちた。胸が痛くて涙が止まらない。
何も伝えてないのに、何も伝えられてないのに、と思っても遅かった。力なく綺麗なベッドのシーツを握る。



「・・・・サエ。」

「あれ、瑠璃?」



記憶の中のサエの声がやけにはっきりと聞こえた。振り返ればぼやける視界にサエらしき人物の姿も見える。ついに幻まで見えるなんて、自分どんだけ・・・・。



「どうしたんだ、もしかして気分悪い?」



幻の中でもサエは優しい。私の隣に膝を付くサエ。この優しさに私は甘えてたんだ。止まらない涙にただ首を横に振ると、暖かい手が私の涙を拭った。ようやく見えるようなった視界に、柔らかく笑うサエの姿が見えた。私は振り返ってサエに抱きついた。



「う、うわっ!」



サエもそんな声上げるんだ。そう思いながら暖かい体温になんだかほっとした。
・・・・ん?



「え、サエ!?」

「俺だけど?」

「ゆ、幽霊じゃない!?」

「幽霊なわけないだろ。ほら、俺足あるし。」



サエはそう言って足元を指差した。視線を落とせば確かに足がある。私は視線を戻してサエの服で涙を拭うと、やっぱり暖かい手が私の頭に置かれた。



「・・・・とりあえずこのままじゃあれだし、座らないか?」



そう言っていつものように笑ったサエのお腹をとりあえず殴った。

  
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