あれから一週間たったが、サエと私は気まずいままだった。と言うか気まずいと思っているのは私だけなのかもしれない。しかし話す機会は少なくなった。今だってサエは、殆ど終わったと言っていた生徒会の引き継ぎとやらでここにはいないのだから。



「瑠璃さん。」



ベンチに座って後輩達のラリーをぼんやり眺めていると、タオルを首から下げたダビデがやってきた。私が手元にあったドリンクをダビデに渡すと、ダビデは私の隣に座る。



「お疲れ、バネからゲーム取るなんて今日は絶好調だね。」

「好調も好調、校長先せ、」

「でもちょっとグリップの握りが甘い所あったから、グリップ張り替えるなりどうにかしたほうがいいよ。」

「・・・・うぃ。」



ダビデはそう言って持っていたラケットを端に立てかけると、私が渡したドリンクをあおった。
そしてタオルで汗を拭うと、私をじっと見つめる。



「・・・・何?」

「サエさんと喧嘩したって、本当なんだと思って。」

「誰から・・・って剣太郎でしょ?」

「残念バネさんから。」

「バネか・・・。」

「それにサエさん最近、変だから。」



そう言ったダビデは持っていたカップをぐしゃと握りつぶした。
ダビデは昔から周りをよく見ている子だった。
例えば誰かが転んだら。ダビデは優しい言葉こそかけないがすぐに手を差し伸べてくれるくれる奴だ。まぁ他のみんなもそんな感じだけれど、ダビデは特にそんな感じだと思う。



「それに瑠璃さんも、なんか元気ないし。」

「え、そう?私元気ないように見えてるの?」

「いつもより、ぼーっとしてる感じ。」

「・・・・ダビデって意外と人の事見てるよね。」

「瑠璃さん、俺がチームカウンセラーだって事忘れてるでしょ?」

「え、あれネタで決めたんじゃないの?」



剣太郎が部長にと決まった後、何故かダビデがチームカウンセラーになったのを思い出した。ダジャレで癒やされ・・・なんてお世辞でも言えないが、こういう所はチームカウンセラーっぽいと言えばぽいようなそうじゃないような・・・・。



「俺、前から聞きたい事あったんだ。」

「聞きたい事?」



ダビデは潰したコップを後ろにあったゴミ箱に投げ捨てた。そしてまたタオルで額の汗を拭う。



「瑠璃さんはサエさんをどう思ってるの?」



パコーン、というボールを打つ高い音が聞こえた。そしてコートを駆ける足音。



「・・・どう、って言われてもなぁ。」

「大切な人?ただの幼なじみ?それとも、両方?」

「・・・・・分からないなぁ。」



私はそう言うと空を見上げた。
分からない。サエにはその言葉が一番しっくりくるような気がする。
小さい頃から事あるごと一緒にいた気がするけど、結局サエはよく分からない。神経質だったり気まぐれだったり、変な所で頑固だったり素直だったり。
私は空からまたダビデに視線を戻すと、私は持っていたノートをダビデの顔に近づけた。ダビデの目が驚いて丸くなる。



「な、何だいきなり・・・。」

「しいて言うなら、こんな感じだって事。」

「こんな感じ?」

「・・・近すぎて、ピントが合わないでしょ?」

「・・・・・・。」



私はそう言ってダビデからノートを離した。
そう、多分ずっと一緒にいたから。近すぎてピントが合わないんだ。サエの輪郭がぼやけて見える。そう考えたら何だか少し寂しくなった。
ダビデは何か言いたそうに口を開いたが、そのまま何も言わずに視線を外した。そしてラケットを手にとって立ち上がる。



「・・・・同じような事言ってた。」

「え?」

「サエさんも、同じような事言ってた。カメラのピントが、」

「おーいダビデ!」



遮るように剣太郎の声がダビデを呼ぶと、ダビデはそのまま行ってしまった。
私は持っていたノートを開いた。
進路調査票。
いい加減提出しなければならない。私はそれをぼんやり見ながら持っていたペンをはしらせた。
  
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