生かされた者達
どう○しつつ中々に帰ってこない審神者様の帰りを待ち続けていると刀掛けに掛けていた真っ白の刀が突如として淡く光りだし目の前から跡形もなく消えた。
一体何が起こったのか理解できなかったが審神者様に何かあったのかもしれないと思いどう○を一端中断し急いで迎えに行くことにした。
元々結界も張っていないことからもしかしたら刀剣様達に襲われているかもしれない、または部屋に帰る道を忘れて迷子になっているかもしれない。
審神者様の性格を考えたら後者の方が高いし迷子になっているだけだという方が此方としても安心できるがもしもということがある。審神者様はお強いがもしも刀剣様達に何かされていたらと思うと悠長にしている場合ではない。
嫌な予感がするのだ。審神者様が顕現してないにも関わらず刀が光って消えた理由は何故なのか。何かが動き出した、何かが始まった嫌な音が聞こえた気がしたのだ。


厠の近くに来てみれば何やら鉄臭い臭いが充満しているではないか。
太郎太刀様も眉間に皺を寄せている。嫌な予感は的中したのだ。
厠に着いてみると厠の出入口の廊下で腹部が血に染まり呆然としている審神者様を抱き上げて殺気を放っている鶴丸国永様の後ろ姿があった。やはり真っ白の刀は彼であった。理由はこの私も分からないが顕現もされていない彼が何かしらの方法で審神者様の元へ降り立ったのだ。
そして二人の先に、真っ赤な血で染まった自身の刀を片手で持ち泣きそうな顔で審神者様を見つめているボロボロの加州清光が立っていた。
何が起こったのか一目瞭然である。加州清光様が審神者様を傷つけたのだ。同じ光景を見た太郎太刀様も何とか踏み止まり殺気を押し殺そうとしているが隠しきれていない。


「助けるのが遅くなって悪かった。だがそもそも君が俺を呼び起こさなかったことがいけなかったんだぞ」
「……」


鶴丸国永様は少し戯けた言い方をしているが加州清光様を睨み殺気を放つことをやめない。きっと審神者様が腕の中にいなかったら瞬時に加州清光様の首を刎ねていたことだろう。


「君を失うと思うと肝が冷えた。こんな驚きはいらないな」
「……」
「おいそこにいつ奴」
「は、はい!」
「なんでしょうか鶴丸殿」
「主を頼む。出血が多いんだ」
「承知しました」
「かしこまりました!」
「主もう大丈夫だぞ…主?」


先程から審神者様が返事をしようとしない。もしかして出血が多すぎて喋ることが出来ないのだろうか。
どれだけ殺しをやっていようと強かろうと、どれだけ外道の道で生きてきたとしても所詮人の子なのだ。審神者様だって傷つくし、下手をしたら死んでしまう。
やはり彼女の怪我が治ったら結界を張る練習をしなくてはならない。結界を張らないとまた同じことが起きてしまうかもしれない…もう傷ついて欲しくはない


「審神者様、ここは鶴丸国永様と太郎太刀様に任せましょう」
「……」
「主よ、どうされました?」
「……ぃ」
「主?」
「おいぃぃぃぃ!!何てことしとんじゃあ!!」
「うぉ!?」
「主!?」
「審神者様!?」


しおらしく呆けた顔で鶴丸国永様のお顔を見続けていると思ったらいきなり大きな声で叫んで鶴丸国永様の胸ぐらを掴んで揺さぶったのだ。
私たち3人+α(加州清光様)は予想外の展開に驚いて頭がついてこない状態だ。だって怪我人よ!?ドロッドロ血流れてこれやべぇよ状態ですよ!?死にかけ(見た目)なのにどうしてそんな力出るのよ!出しちゃうのよ!!
しかもまだ加州清光様に怒鳴るならわかるけどなんで助けてくれた命の恩人たる鶴丸国永様に怒鳴って胸ぐら掴んでるの?おかしくない?おかしいよねこれ。


「おぃ!よく聞けこの大馬鹿者がぁ!」
「お、おぅ」
「貴様なーに白地の綺麗な着物血で汚してんだ!何で白着てんだ!黒着ろよ!」
「あんたの怒りそっち!?」
「白ってのはなぁ、中々汚れが落ちない色なんだよ!下手したらワイドハ○ターでも汚れが取れなくてもう一回浸けて洗わないといけなくなるかもしれない色なんだよ!クリーニング屋さんで意外と高いお金出さないといけなくなる色なんだよ!!」
「おぅ」
「現実的すぎる!!」
「お前汚すタイプだろ、あえて汚すタイプだろ?今後カレーライスとか!トマトジュースとか!イカスミパスタとか絶対食うなよこの見た目病弱男がぁ!」
「この人いっっつもシリアスな場面ぶち壊すぅぅぅ!!」
「こんのすけのつっこみも中々ですよ」


この人怒るところが通常の人と違い過ぎる。この場面怒るところちゃうよ。ほら加州清光様もドン引きしてますよー。なにこいつ怖いって顔で審神者様のこと見てますよ軽く逃げ腰になってますよー。


「俺は貶されてるのか…」
「この美男子がぁ!かっこよすぎて目がチカチカしてクラクラするんだよ!なんなんだよ!!」
「誉められてるんだな」
「チカチカしてクラクラするのは血を流してる状態で鶴丸殿を揺さぶってるからですよ。そうに違いありません」
「太郎太刀様正論すぎる!」


しおらしかったのは一体何だったのか…自分は幻覚を見ていたのではないだろうかそれとも今までの全部演技だったのだろうかと疑ってしまうほど、スイッチが切り替わり特急列車並みの通常運転をし始めた審神者様。


「というよりお前誰だよ。この本丸にいなかったはずだぞ」
「今更!?」
「俺の名は鶴丸国永だ。俺みたいなのが来て驚いたか?」
「話に乗ってくれてる!」
「知ってるし……こんなの、驚かずにいられるか。」(←思った以上に廊下に血が飛び散ってて後始末の面倒臭さに驚いてる人)
「知ってるなら聞くなよ!しかも驚いたって言ってるけど目線違うとこ見てるし!」
「そうか!驚いたか!」(←驚かすことが成功して純粋に喜んでる人)
「絶対鶴丸国永様に驚いたんじゃないよ!気づいて!」
「………。」(←止血させ包帯を無言で巻いてる人)
「太郎太刀様もなんか言って!無言やめて!」(←突っ込まずにはいられない人)
「こんな傷唾でも付けとけば治るわ!」
「治るか!!」


はぁはぁ……え?何です?突っ込みしすぎ?
私がツッコミをやめたら誰がするんですか。皆ボケ専門なんだからツッコミ出来る人いませんよ今のところ。
今だって審神者様包帯巻かれてる途中なのに立ち上がって腕グリングリン回してますからね。回した後ストレッチしてますからね。そんな審神者様をキラキラとした目で見つめてる鶴丸国永様と動かれても丁寧で綺麗な包帯巻きをしてる太郎太刀様。この二人が私以上にツッコミ出来ると思います?思わないでしょ。


「ねぇ!」


このほのぼの?空間に大きな声が響き渡り私たちは動きを止め声の主のほうを振り返った。
そこには敢えて存在を消して居ないことにしていた加州清光様であった。彼は捨てられた子犬のような目で審神者様を見つめている。
審神者様はそんな彼に「あぁまだ居たのか。一体そこで何してるんだ?」ときょとんとした顔で意外と残酷な言葉を口にした。
私たちは敢えて無視していたが審神者様は多分本当に気づいてなかった。というか彼そのものがどうでもいいといった感じだ。言われた本人めちゃくちゃ傷付いた顔しているが…


「お、俺あんたを殺そうとしたんだよ?やられたらやり返すって言ってたのに何で何もしてこないんだよ」
「なんだ?やり返されたいのか?」
「あんたがそう言ったんだ!だったらやれよ!」
「主、俺がやるから下がってろ」
「私も手伝いますよ」
「待て待てストップ。まぁやられたらやり返すのが私のやり方だが……別にやり返すつもりはないよ」

私たちからすると大切な審神者様を傷付けたことは許されるものではないし、出来るなら斬り殺したいと太郎太刀様と鶴丸国永様の目は語っているが審神者様はそれを許さなかった。
それどころかやり返さないと言ったのだ。あの審神者様が。


「は、はぁ?何で…」
「だってお前から殺意を感じなかったからな。だから判断が鈍ってうっかり刺されたんだよ。私の判断と反射神経のミスだ」
「何言ってんのか理解出来ないんだけど。殺意がなきゃ刺せないと思うけど?俺はあんたを殺そうと思った!もし殺し損ねても刀解してもらおうと思ったんだよ!もうこれ以上人間にこき使われるのは真っ平だ!」
「なんだ。そんなに刀解されて死にたかったのか?」
「そうだって言ってんだろ!」


確かに彼の気持ちも分からないわけではない。彼らは信じていた主に裏切られ傷つけられ人間不信に陥った。自分達を傷付けた人間が憎い、使われたくない、使われるなら刀解されたい………
でもだからといって関係のない人を傷つけて良いわけではない。


「そっかー。そんなに罰して欲しいのかー」


審神者様は訴える加州清光様に間延びした声で応えるがその声には落胆の色が濃い。彼を見つめ返す目も冷たく失望したと言っているようにすら感じる。


「罰して欲しいなら罰してやるよ。加州清光殿、私が生きている限りお前を殺してやらない。刀解もしてやらない…これが私からお前に与える罰だ」
「なに…それ…酷過ぎるよ」
「それが罰ってもんだろう?死にたくても死なせてもらえないんだからな。せいぜい頑張って生きて見せろよ」
「ほんとっ、鬼畜。死を望むことも許されないなんて…」


彼に与えた罰は何よりも重い罰だ。だが、彼は審神者様と主従関係を結んでいるわけではない…ならば罰にはならないだろう。死にたいのならば勝手に自害すればいいのだから。そのことをお二人は解っているのだろうか。


「加州清光殿、お前の行動は手に取るように分かる」
「は?何のことだよ」


懐から煙草を取り出し吸い始める審神者様の顔は勝ち誇ったドヤ顔をしている。これこそいつも通りのザ・審神者様といった顔だ。


「先程の答えを言ってやる」
「答え?答えとは何のことですか?」
「私はお前を愛さない」
「…」


私達が来る前に何かしらの会話があったのだろう。その言葉に加州清光様の顔から表情がなくなった。


「愛というもの自体余りよく分かっていないが私は私のことを心から愛し、信頼し信用する者しか愛さない。完全に心を開いてるわけでもなく利用する為に嘘をつく身勝手で自分勝手な野郎なんざ愛さない。なぁ利用目的で愛を乞う加州清光殿、お前は全てを捧げれるほど私の事を愛してくれてるのかい?……な訳ないだろう?愛していたら無意識に体が動いて綺麗に急所を狙って刺す、なんてことしないもんなぁ?」
「……」


加州清光様は下を向いて何も答えようとはしない。その姿は彼女の言葉を肯定しているようなものだった。
彼は何かしらの目的の為に審神者様を利用しようとした。しかし意思とは反対に体は無意識の内に殺すために動いていたと審神者様は言う。一体何の為に利用しようとしていたのかは分からない。
しかし急所を刺されてるのに死んでないどころかピンピンしてる審神者様はどうなんだ?血の量すんごいのに本人ありゃりゃ刺されちゃった、って軽い感じでおかしいと思うんだよね。もしや不死身という人間を超えた存在なのだろうか?…なわけないか


「ということで、どう〇の続きもしないといけないから帰るわ。行くぞ皆の衆!じゃーなー」
「あ、待ってくれ主!」
「どう〇の前に治療です」
「その前に審神者様を強制的におんぶか抱っこしないと!!」


やっぱりあの人不死身だわ!軽く走って退場しましたからね!怪我人とは思えない速度でしたからね!!ちょっと理解し難い…いや信じられないわ!!!










審神者一行が嵐の様に去って居なくなった廊下は騒がしかったのが一変し静寂に包まれる。加州は審神者が去って行った方を静かに見ていたが、視線を審神者の血が大量に付着している自身の刀に移す。
血と血と隙間から濁った目をしたボロボロの顔が映っている。覇気がなく、傷つけた側のくせに傷ついた顔をしている自分の顔だ。
自分は半分だけの存在。今まで2人で一つだったのに、今は隣に相棒が存在しない。


「俺って何の為に生きてんのかな…」


その問いに答えてくれる者は存在しない。相棒も、あの審神者も


「俺を生かすとかおかしいだろ」


なんであの時自分を生かしたのか。なんで自分を庇って身を差し出したりなんかしたのだろうか。なんで殺されるはずだった自分が生き残っているのだろうか。
なんで…あの審神者はあいつと同じことを言うのだろうか。
俺を生かしたあいつはバカだ。俺を刀解しなかった審神者はもっとバカだ。


「大丈夫。…今度こそ上手くやるから」




「俺が、俺がお前をもう一度……」


濁り切った彼の目に一瞬、微かに光が灯った
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