審神者という者
暖かくて綺麗な霊力が私を呼び覚ます
この心地よい霊力の持ち主が私を呼んでいるのだろう。目覚める前に、光り輝く魂に身を委ねればその光に反する主の過去が頭の中に流れ込んできた
私を呼んでいる魂の主は女性だ。しかもまだ若い
彼女の過去全てを知った私は具現化していないのにも関わらず冷たい何かが流れ出た。その冷たい何かを止める術も私にはわからない。ただ流れ出るのだ
彼女は人として生きてこなかった。ただ感情を消し意志を消し、壊れた笑顔で人を殺すだけしかしてこなかった。
哀れで不憫な子だ。そんな子を私は無性に守りたいと、傍に居たいと思った
彼女の呼び掛けに応え目を開ける。


「さて現世に呼ばれてしまいましたね。私は…」


目を開けそこに立っていたのは生首3つ片手に此方を見ている血塗れの少女だった
私は開けた目を再び閉じた


落ち着きましょう。少し落ち着きましょう
落ち着くということは大切な事なのですよ。あぁそうそう深呼吸することも忘れずに
目の前にいる女人はあの魂の持ち主であるのは間違いないようですね。間違ってくれていたら助かったのですが間違いではないですね。
この死臭漂うこの場所は戦場でしょうね。彼女の後ろに沢山死体ありましたからね
では何故生首3つ持っていたのでしょうね。持っていたというか回していましたからね。生首の髪の毛掴んで回して此方見ていましたからね


状況整理をし、開けたくなかったが閉じた目を再び開けると彼女の手に生首はなくなっていた。えぇそうです彼女は元より何も持っていませんでした。持っていませんでした


「お前誰だ?あぁ資料にあった太郎太刀という奴か?顕現したのか。やり方はよく分からなかったがまぁ結果オーライというやつか…いやしかし結構デカいな…私は、あーえっと…私に名前なんてないからなぁ。適当な名前でいいのか?いやわからんな…名前があったら良かったんだが…うーん…通りすがりの旅人Aだ。よろしくな」


目の前にいるのは哀れで不憫な子ではなくツッコミ所満載の少女であった










彼女に連れて来られたのは政府という現世の建物の一室だ。
何人もの人間とすれ違うたび彼女を目にした人間は大きな悲鳴を上げて逃げて行った。悲鳴を上げたくなる気持ちもわかる。何せ彼女は全身血濡れで悠々と歩いているのだから。


戦場からこの施設に着くまでの間沢山話をした
まず、何故私の事を知っていたのかというと、彼女の担当と呼ばれる使用人らしき人間が持っていた資料を奪って勉強したからとの事。
また不用心に真名を名乗ろうとしたことを咎めたら、名は持ち合わせていないという返答が返ってきた。どうやら彼女は名を貰ったことがないようだ。だから自分の名前を言えないし相手に言う事も出来ないらしい。この時ばかりは彼女の人生を狂わせた者達に呪を与えてやりたくなった


そして


「私を呼び起こすことが出来たのですから貴方は殺し屋から審神者になったのでしょう?戦場は審神者が来ていい場所ではないですよ」
「…何で殺し屋ってわかったの?」
「呼び起される際、貴方の過去が流れ込んできました。その時貴方の過去全てを知りました」
「へー凄いな」
「何も思わないのですか?」
「自分の過去なんて変えれないしどうでもいいからなー」
「そうですか…して、何故あのような戦場に?」
「暇潰し」


即答で返ってくる暇潰しという答えに心の中でため息が零れる
先程の言った通り此方は彼女の過去全てを知ってしまっているのだ。それは戦場に向かう前の担当との会話や戦場に向かわなければならない理由。彼女の心の声や思い等全て知り得てしまっている。だからこそ彼女が今し方嘘をついたことなどお見通しであるのだ。もちろんその事など伝えはしないが


「嘘はついてはいけません。正直にならなければいけませんよ」
「………はぁ。今から行く本丸…普通の本丸じゃなくて腐った人間に扱き使われて傷つけられて歪みきったあんたのお仲間がいる元ブラック本丸って場所に…資材が一つも無かったらいけないだろ。念には念を、だ」
「まだもう一つ理由があるでしょう?答えてください」
「…………」
「答えてください」
「……牽制。私は強い、お前らには負けないっていう牽制の為…」
「成程そうですか」


彼女が態々戦場に来ていた理由である。資材は向こうの本丸に沢山あるということは担当の者から聞いていたがもしもの為にということ。
そして彼女が全身血塗れでその血を拭おうとしないのは荒れ切った我が同胞達に嘗められないように、殺され無い為に威嚇するモノであった。彼女があえて様々な武器をどこからでも見えるようにチラつかせているのもその理由に当てはまるだろう
どれだれ人を殺してきても人間として扱ってもらえなかったとしても、結局彼女は人の子なのだ。神と呼ばれる存在に恐怖するのは当然である。


己を呼び起こした少女はやはり哀れで不憫な子だ
頼るということも知らず、人間ではない相手に恐怖を抱くもそれを悟られないように威圧出来るような恰好をして隠す。バレそうになったら自分が不利にならない程度の嘘をつく。そのようなことしかわからない
このような子を守りたいと思うのは仕方ないのではないだろうか。
前を歩く小さな存在を呼び止める


「私はあまり現世に興味はないのです」
「…?」
「あなたに私が扱えますか?」


私の問いに彼女は一瞬何を言われているか分からない顔をしたがすぐにニンマリと悪そうな笑顔を作った


「私を侮るなよ。私に使えない武器はない」


彼女のハッキリとした答えに自然と口角が上がった


「あなたの為に私の全てを捧げましょう…我が主よ」
「あぁよろしく頼む。太郎」
TOP
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -