生かされた者達
二人が出陣していない今、私は私の役目を果たしにいくことにしよう。本当ならこのまま放っといてもいいんだけど、非常に面倒くさいことになったため放っておくことも出来ずやらざるを得なくなったのだ。二人がいたら絶対行かせてくれないし般若太郎が召喚されるからな。
こんのすけに刀剣どもを大広間に集めるように絶対強制的命令を出せば困惑し不安そうな顔をしながらも何かを感じとったのかしぶしぶ歩き出した。
こんのすけの後ろ姿を横目で見ながら太郎が治療の為にと施してくれた包帯を全て取っていく。太郎には穴が空いてる傷口部分しか見せていないし触らせてない。下半身は何故かあまり意味をなさないズボンの上からの包帯だったし。
穴が空いたボロボロの服は捨てるとして、ズボンは血が染み込んでぬとぬとしてるし不快感が拭えないので新しいズボンに替えなくてはならない。
包帯と服やズボンを全部脱いで下着だけの姿になる。太郎の処置が早かったお陰か傷口は余り開いていない。ふむ、これなら1ヶ月程度の傷だろう。
おや、服を脱いでようやく気が付いたがブラジャーにも血が染みていたようだ。ブラジャーも替えなければいけなくなってしまった。








さて、大変のことになってしまった。
今、私はショーツ一枚で部屋の中を隅々まで物色してる状態だ。なんでショーツだけ履いて物色しているかというと衣類が入っている場所がどこにあるかわかんないからなんだ。いっつもこんのすけに用意してもらってたから私の衣類がどこにしまっているのかわかんないんだよね。


「審神者、ちょっといいかい」


部屋の外から聞き覚えのない声が聞こえ、返事をする前に閉ざされていた襖が勢いよく勝手に開いた。


「あんたに話が……わあああああああ!!!??」
「話をする前にちょっと手伝って欲しいんだがな」
「あ、あ、あんたな、なんではだ!…………なに、何その傷…」
「ん?傷?」


部屋に勢いよく入ってきて尻餅を付き狼狽えてはゆでダコのように真っ赤になったと思ったら顔を青ざめたり蒼白したりと百面相が得意な女装をしているこの刀剣男士は次郎太刀という奴だろう。
夜伽させられてたぐらいなんだから女の裸なんぞ見飽きてるだろうに何を狼狽える必要があるのか。それに、傷は傷でもこいつの見ている傷は多分加州にやられた傷じゃないんだろうな。
奴の視線は私の体中についている無数の傷のことだろう。もし太郎にも見られていたらきっとこんな反応をしていたに違いない。


「なんだよその傷……アタシたちがやったってのかい?」
「いや、どこからどう見てもわかるこの真新しい傷はあんたのお仲間なんだけど他は違うよ」
「じゃあ、なんなんだい…尋常じゃないよ」
「まぁな。切り傷に刺し傷、打ち傷に火傷後、貫通や擦過射創とかかな?」
「あんた…頭おかしいよ!なんでそんなに平気な顔して言えるのさ!!」
「そうだね、頭がイカれてるから平気なのかもしれないな」

明るい世界じゃなく闇の世界で生きてきたのだから通常ならあり得ない怪我だって負ってしまう。私だって考えられないような怪我も負わせてきた。そんな奴らばかり集まるのだからイカれてないほうがおかしいだろうな。


「あんた女だろう。そんな」
「女も男も関係ないさ…っと、ようやく見つけたぞ!!」
「殺し屋だったって…」
「なんだ知ってたのか?」
「こんのすけがあんたは殺し屋だったって言ってたのさ。だけど…一体何があってこんなにも傷を負ったんだい」
「うーん、多分色々とあったんだろうな。忘れたよ。まぁ女としては魅力の欠片もない視界にすら入れたくないぐらいの体だろうけどな」


私の体を見てすぐさま顔を背けた次郎太刀は当たり前の行動をしていると思う。昔、吐き気がする程の気味の悪い体だと誰かが言った気がする。まぁそう言われていたように10人中10人が同じ反応をする程の化け物のような体なのだ。余り自分は気にしてないが。


「よっし!準備完了だ。行くぞ」
「は?行くってどこに…そもそもアタシはあんたに用が、ちょ、ぐぇぇぇぇぇ!」
「しゅっぱーつ」
「首、し、しま……っ………て…る!」












大広間にてなんとか殺気立っている皆を集め審神者様を待っていたらまたいつものようにドカドカと足音を立てて襖が壊れるのではないかと思うほどに乱暴に開けて部屋に入ってきた審神者様と……と、首根っこ掴まれて引き摺られてる次郎太刀…様。
え?何があったの?
次郎太刀様だけ見つからないなって思ってたけど何してたの?審神者様もなに自分よりもでかくて重い男を軽々と片手で引き摺ってるの?
ほら皆さんを見てください。審神者様が入ってきた瞬間柄に手を掛ける者や刀を抜いた者が殆どでしたが次に首根っこ掴まれた次郎太刀様のお姿を目にした皆さんはえぇー?って一気に脱力した感じになりましたよ。もちろん私も脱力しました。


「よっと」
「ぐえしっ!」


乱暴な審神者様によって顔面ダイブ入場を果たした次郎太刀様は顔面のHPがごっそり減った様子だ。


「ちょっとお前たちに尋ねたいことがあってさ。この中に刀解されたい奴はいるかい?」


審神者様の言葉に皆が一斉に刀解しろと叫び始めた。中には罵倒している者もいるが大半がもう眠りたいだのもう散々だのお前らなんかに使われるぐらいならなどと言っている。審神者様はそんな刀剣様達の姿を一人一人眺めた後無表情から一転しあからさまな嘲笑をした。


「あはは、そうかそうか。こんなにも刀解されたい奴がいるなんてな。いや面白いな、大嫌いな人間様に頭下げてくそったれな人間様の手で刀解されたい弱虫の神様が大勢いてウケるな」
「なんだと…」
「いや別にバカにしてるわけじゃないんだぞ。仕方ないよなぁだって過去に信じていた人間に裏切られ傷つけられ沢山絶望を感じたんだからな。あぁ刀解じゃなくて自害したい奴もいるかい?戦うことも諦めないこともやめて背を向けて逃げることにしたとんだつまらない腑抜け野郎もいるか?」


審神者様は慈悲深い笑みで語っているがその物言いは凍りついてしまいそうなほど冷淡だ。
挑発により刺激された全ての刀剣が先程の倍の殺気を審神者様に浴びせているが、審神者様はより笑みを深めるだけだった。通常の人ならばこれだけの殺気を浴びせられたら失神したりそれこそ恐怖に押しつぶされて自害を選ぶ人もいるだろうが、審神者様には一切として効いていないみたいだ。


「さぁ刀解してやるからしてほしい奴前に出てこいよ。」
「…いい加減黙れよ!お前に何がわかるんだよ!お前はされたことあんのかよ!大怪我してんのに戦場を駆け回ったことがあるか?大切な仲間を殺したくもないのに殺したことがあるか?傷の上からさらに傷つけられて抉られたことあるか?したくもねぇ夜伽をさせられ続けたことがあるか?死を望むほど追いつめられたことがあるのかよ!」
「そうか、で?」


強く握りしめた拳から血が滴るぐらいに堪忍袋の緒が切れた和泉守兼定様が審神者様に言い募る。しかしそんな彼を審神者様は一瞥しただけでだからどうしたと言わんばかりの顔だ。そんな彼女の態度に和泉守兼定様や他の皆さんも絶句してしまった。流石に私も彼女の血も涙のない態度には酷過ぎると感じる程に。


「…お前ふざけるなよ」
「だからそれがどうしたと言うんだ?」
「お前人間じゃねぇよ。あり得ねぇ」
「そのぐらい普通だろう?私だってその程度の事は散々されてきたさ。大怪我なんて日常茶飯事だし、仲間を沢山殺してきたし殺されかけたこともあったし、実験動物の様に扱われたことだってあるし、外道な大人たちに縛られ括り付けられて銃やダーツの的になったことだってあるぞ?…多分他にも色々とあったと思うぞ」


審神者様の温度のない淡々とした言葉に別の意味で私達は絶句してしまった。彼女の過去はデータで大まかに記録されていたから知っていたが、まさかそれほどの事をされていたなんて…
何より彼女がさも当然の様に、なんてことも無いかのように自身の悲しい過去を語る姿に胸が痛む。彼女にとってそれは日常で悲しむべきことではなかったのだ。


「……だから、あんなにも傷を」
「ん?まぁねー」


審神者様の横で顔を押さえていた次郎太刀様が小さな声で呟いた。傷?傷とは一体なんのことだろうか…


「まぁ私のことはどうでもいいだろう。刀解されたい奴は遠慮なく離れに尋ねて来てくれ、それじゃあな」
「あ、お、お待ちください審神者様!」




スタスタと歩く審神者様になんとか追いつき彼女の肩によじ登る。彼女に聞きたいことは山ほどあるが一先ず優先すべき言葉をかける


「審神者様、あのような言い方はよろしくないですぞ。あんな挑発するものではありません。それに包帯全部取るなんてどういうことですか」
「いいじゃないか許せ。神様だってプライドの一つや二つあるだろ?あんなこと言われたら誰も命を投げ出すような真似しないさ。包帯取ったのは邪魔くさかったからだ」
「だからといって!」
「だー!耳元で煩いぞ狐!いいったらいいの!別の用件で離れに来る奴は出てくるだろうがな」
「それは一体どういう…ぎゃあ!いきなり尻尾を掴むなんて酷いです!」
「ぎゃんぎゃん喚くからだ!」
「この不器用を通り越した無神経者ー!あえて読まないKY女子ー!」
「お黙りモジャ毛!」
「ぎゃあ!落とすなんて酷いですぅぅぅぅぅモジャ毛!!!!!!!!?」




こんのすけの喚き声は大広間にまで届いていたそうな
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