審神者という者
審神者様と太郎太刀様が戦場へと出て行かれた後の本丸はそれはそれはもう収集つかない状態でした。
呆然としている方やあれやこれやと騒ぎ立てる方たちをなんとか沈め、他の方たちがいる大広間へとなんとか連れて行きました。
大広間に居る皆様をグルリと見回すといいから早く教えろ、これはどういうことだ…と様々な言葉が飛び交いました。
喋ることすら出来ない方は床に伏せつつ私を睨んで来られました。
私はゴホンッと大きな咳払いをし、審神者様について話始めました。彼女が殺し屋だったこと、霊力が非常に高いから強制審神者にさせられたこと、捨て駒同然として此方の本丸に連れて来られたこと…彼女について話し出せば表で斬り合った彼らはだからあれだけ強かったのかと少しだけ納得されているお顔もしましたが大半は苦虫を潰したような顔をされておりました
当たり前ですが歓迎している方は誰一人としていませんでした


取り合えず説明は済んだので私は審神者様に言われていた離れの掃除を早くしなければ…殺されてしまうでしょう。私だって我が身がかわいいのです。稲荷寿司と油揚げ欲しいのです。さっさと掃除しなければ
離れに向かうためこの部屋を出ようとすれば彼らも立ち上がろうとするではありませんか。何を、と問えば無論あの審神者の首を刎ねる為だ。と申すのです
いやいやあんたら学んで無いんかーい。やられたやん。無様にやられたやん!
やったらやり返すとも言われていたのに話を聞いていないのか聞くつもりはないのか立ち上がろうとする彼らを止めようとすればビシャンッという効果音が正しいでしょう。私の後ろにある襖が乱暴に開けられ振り向けば審神者様と太郎太刀様がご帰還なさいました。


「きかーん。帰ったでー狐っ子。離れは何処だ?」
「は…?」


後ろで刀剣様達が審神者だとか消えろとか色々言ってるけど今私にはそんな雑音が聞こえないでいる。
驚きのあまり声が出ず私は目をひん剥くことになった。
私、こんのすけの目には特殊な術がかけられていまして刀剣男士様のステータスをパッと見ただけでわかるようになっているんです。
でね。でねですよ!
出て行ってから30分しか経ってないのに帰って来たことと、審神者様の後ろにいる太郎太刀様のレベルが行く前はレベル1だったのに30分という異常の短さで帰って来た彼のレベルは50になっていたことに驚かずにはいられなかった


「いやいやいやいやなんでー!!?厚樫山30分でクリア出来ちゃう場所じゃないから!なんで太郎太刀様50レベルまで上がっちゃってんの!?あり得ないから!おかしいから!」
「狐は騒ぐのが好きなのか?煩いぞ?」
「好きじゃねーから!答えてよ!」


泣きながら飛びつけば審神者様が煙草を吸いながら首をかしげる。どうやら審神者様も太郎太刀様も後ろの刀剣様達をいない存在として扱ってるみたいだ。凄く可哀想


「主のお陰ですよ」
「だ」
「だ。じゃないよ!だ、じゃないから!」


そしてふと私は気づいた。太郎太刀様がご自身の刀ともう一つ真っ白の刀を持っていることに、審神者様が等身大の何かを引っ掴んで持っていることに
さんざん無視されてしまっている刀剣様達が最初は焦りと困惑の雰囲気を晒し出していたが、自分たちの存在を無視され話を続けられていることに怒りを生み出し代表として一期一振様が審神者様に斬りかかってきた。
審神者様はそれをチラリと見てあぁ居たのか、と呟いたら私を何も持っていない手で引っ掴んでご自身の肩に乗せました。太郎太刀様は刀を抜こうとしたら審神者様に手で制され、審神者様はさっきから等身大の何かを持っている方の手を動かしました。そして私はそれを見てしまいました。見なければよかったと見て早々後悔しました


おいちょっと待て。何故そんな物持ってんだこの人。これあれじゃん…マネキンじゃん。マネキンはマネキンでもあれですよ。某ファーストフード店のドナ〇ドさんですよ。片手を腰に、もう片方の手を顔の横でパーにして怖いぐらいのスマイルで此方を見ているドナ〇ドさんですよ。その方の足を引っ掴んでるんですよこの人。
そして斬りかかってきた一期様に向かって審神者様はドナ〇ドさんのスマイルフェイスヘッドを一期様のお腹に沈めました。


「スマイルドナ〇ドアターク」
「ハッピーセット!!!」


一期様はスマイル攻撃に勝てず汚れた庭の方に投げられてしまいました。
それを呆然と見るその他の刀剣様達。短刀様達はブルリッと体を震わせました。怖いよな…これは怖いわなあのスマイルで攻撃されたら堪ったもんじゃないわな
私は小さな足で器用に審神者さまの頬を抓った


「審神者様?どこで拾った?戦場にはこんな物落ちてませんよね?落ちてるわけないですよね?私の鼻は誤魔化せませんよ。行ってきたんか?食べてきたんか?ん?」
「…敵が食べててな…」
「嘘はいけませんよ主」


太郎太刀様が早業で軽快な音を出しながらビックハリセンで審神者様の頭を叩いた
え?太郎太刀様そんなことする方ではないですよね?どこから出したそのハリセン…


「戦場帰りにお腹を空かせた主がマク〇ナルドという食事処に連れて行って下さったんです。その際其方の人形を主が掻っ攫っていったんですよ」
「…犯罪ですよ審神者様」
「殺し屋なんで」
「何でもかんでも殺し屋だからと言えば良いってもんじゃないですよ!」
「う…それよか離れは?掃除した?」


話を逸らした審神者様に掃除まだですよと伝えれば尻尾掴まれて宙吊りにされた。仕方がないじゃない!説明し終わった所にあなた達が帰って来たんだから!


「はぁもういい。私が掃除するから案内しろ狐」
「こんのすけです」
「ちょっと待てよ」
「ん?」


庭でドナ〇ドさんと一緒に伸びている一期様を一瞥した和泉守様は審神者様と一定の距離を保って刀を抜かれました


「俺の仲間を傷つけやがって…やっぱりてめぇは信用ならねぇ」
「いや…あっちから仕掛けてきたじゃん。返り討ちにあっても文句言うなよってさっき言ったはずだが?」


どうやら刀剣様達は審神者様のお話を聞くつもりはなかったみたいです。審神者様はあんなにも堂々と宣言されたのに聞く耳を持たず攻撃してきたのだから、其方が悪いと思いますけどね…スマイルアタックは予想外でしたが


「はっあれも全部嘘なんだろ?俺は騙されねぇ!何もしないって言って、どうせお前も豊満な霊力で俺たち縛って無理やり主従関係握らせて夜伽強要したり過度な出陣繰り返させて俺たちを斬り合わせたり折らせたりするつもりだろ!今はいい子ちゃんぶったってそうは…」
「よとぎ?って何だ?」
「「は?」」


ついつい和泉守様とハモってしまった。声に出しはしなかったが他の刀剣様達もは?ってなっている。太郎太刀様は真顔のままです
首を傾げてん?んん?っと言ってる審神者様。え…本当に知らないの?


「なぁよとぎって何だよ」
「…し、知らない振りしたってそうはいかねーぜ」
「知らない振りして何の得になる?まずどうやって書く?どうするものなんだ?喧嘩か?」
「主、夜伽とは大人の夜の大運動会…」
「アウトォォォォォ!!!太郎太刀様それアウトォォ!いいですか審神者様!夜伽とは夜添い寝して言葉遊びをしたり玩具で遊んだり、お布団の中で横になりながら楽しい事をするということですよ!」


男女がお布団の中で頑張っちゃうことですよなんて言えるわけがない。なんとか言葉を選んでみたがどうだろうか…
審神者様の後ろに立っている太郎太刀様を見れば両手で×を作っている。え、これダメですか…マジですか…説明しようないんですが…


「そうなのか…なにそれめっちゃいい事じゃん。それ強要されても別に苦ではないじゃん。苦にならないじゃん」


く…心が痛い。なんて純粋な審神者様なんだ!私のぼかしぼかしの危ない説明を鵜呑みにして夜伽=楽しいことと解釈してしまった。いや楽しい事でしょうね。お互いの同意があれば楽しい事ですよもちろん。強要されたら苦ですよ!いやですよ!
和泉守様もウソだろ…って顔してらっしゃる。ですよね、ここまで純粋だと逆に不安でしょうがないです


「私は嫌がる相手にそんな添い寝して楽しい事しろとか言わないぞ。嫌がられたらこっちも気分が下がるだろう」
「あ…あぁ」
「な、狐!太郎!」
「「ですね」」
「よし話は終わりだ。こん、離れに案内しろ」
「合点了解です」


呆然としたままの刀剣様達を残し私達3人は離れへと急いで向かった
いやはや、常識を知らないとは聞いていましたが、こういうことも知らないんですね。うん審神者様にはまだお早いお言葉ですね。知らなくてよい事です
うんうんと一人頷く。これから彼らと対立したり死闘を繰り広げることになるかもしれないが…いやきっとするだろう。でも彼女は色々な意味で図太いから時間はかかってもきっとうまくやっていけるかもしれないとこんのすけは心の中で思うのです。
長い時間はかかるだろうでもきっと大丈夫だと。彼らだけでなく彼女も心を開いて皆で仲良く暮らせるようになればいいなと思わずにはいられなかった




そんな心の中での思いを切り捨てられるかのように、カビとキノコが生えた離れに着いた瞬間「ありえん汚い最悪だ!」と審神者様が怒鳴るまであと3分
怒りの矢先が私に向かい沼のように濁った池に池ポチャされ、こんのすけに当たった審神者様の頭を太郎太刀様がハリセンでド突くまであと5分
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