ヨコハマギャングスタアパラダヰス(後編)
―side樋口―




龍ちゃん。と親しみの籠った声で先輩の名を呼んだ。
だが彼女の目は声とは裏腹に底冷えするかのように冷たかった


「その名で呼ぶなと言っていたはずだ。しかし、また貴方に呼ばれる日が来るとはな」
「龍ちゃんは龍ちゃんですからね」
「………貴方が、あの人と一緒に消えるとは思ってもいなかった」
「えー、だって私関係ないじゃないですか。私が何しようと私の勝手♪」


先輩は微かに嬉しそうな表情をしている。声も…態度も…
先輩の何もかもが彼女に遭えたことに喜びを感じている。
だけど、彼女は違うみたいだ…目は笑ってすらいない


「さて、長話をしたいところだけど…急がないと彼らが危ないのでー。用件済ませちゃいますね?」
「用件?」


用件とは何か…
私がそう呟いた瞬間、後ろに何か嫌な気配を感じ咄嗟に身を翻す。
身を翻して正解の様だった。私がさっき居た場所には真っ赤な剣が何本も地面に突き刺さっていた。
私を殺そうとした犯人は…般若のお面をつけ何本もの腕を生やした真っ赤な千手観音のようなモノだった


「小春さん!何を!!」
「……私、個人的に貴方がいけ好かないんですよねー美人さん?」
「っ!?」


先輩が彼女の名前を焦ったように呼んだことも、般若観音の存在も全てがどうでもよくなるかのような彼女の静かな声と射殺さんばかりの目
何故私が?


「治に、手を取られ口説かれ心中して欲しいって言われた位で…調子に乗らないで欲しいんですよねー」
「はっ!?」


ついつい大きな声が出てしまった。
だって彼女の言いたいことを言いかえれば、探偵社のとある変人に可憐だどうのこうの言われ終いには心中とか言いわれた私が気に入らないから怒り殺そうとしたということになるだろう。
なんだそれは…ただの嫉妬じゃないか
嫉妬如きで私は死ぬ思いをしなくちゃいけなかったのか


「治は私のなんです。力も無く非力で弱い貴方にはふさわしくないんです」
「…はぁ」


先輩も呆れている。
私だって好きで言われたわけじゃない。こんなの理不尽すぎる。


「呆れました…貴方はまだあの人に依存しているのか」
「依存出来る程の相手もいない龍ちゃんに言われたくないです」
「…いますよ。依存したい依存し合うことが出来れば、と思う相手は僕にも居ます」
「へぇ」


彼女が何か言いかけた時、何か動く気配を感じた
それは私の後ろにいる般若観音ではなく、私達の横から…


「あっ起きちゃいましたね!巻き込まれたら嫌だから避難避難ー」


場違いなほどにそうのんびりとした口調で彼女が呟いた瞬間に、後ろにいた般若観音が一瞬で彼女の傍に行き彼女を抱き上げ消えた
私は思わず身震いしてしまった
般若観音が本気を出せば、私が気づく前に一瞬で殺されていた。けど私は死んでいない
彼女は本気で私を殺す気がなかったということだ
それに最初の巨大な顔の血も、だ
恐怖で動けなかったが、アレもゆっくりとした動作で私の反応を楽しんでいるかのようだった…
最初から彼女に弄ばれていたということなのかもしれない


ため息を吐き、気配のする方を見ればそこには生け捕りにするはずの人虎だった…
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