ヨコハマギャングスタアパラダヰス(後編)
―side樋口―




芥川先輩の能力により人虎は片足を失った。五体満足でとは言われていなかったからこれで捕まえやすくなった。
後は人虎を連れて帰るだけ…そう思い芥川先輩の元へ駆け寄ろうとしたら頭上から一滴何かが滴った。
一体何が、そう思い滴ったモノを見ればそれは毒々しい真っ赤な滴…血だった。
何故自分の頭上から一滴の血が滴ったのか。その疑問を頭の中で考えるよりも速く、その血は姿を変えた
ゴポゴポと音を立てて血は見る見る内に大きくせり上がってくる。そして一滴の血は人の顔を作り私を丸々呑み込めるほどの大きさになった。男性の様な顔つきをした真っ赤な頭が私の目の前に現れた。
一滴の血が人の顔に変わったのは、瞬きをした一瞬の間だ
見たことも無い異形なモノと圧倒的な威圧感を放つソレに足が竦み動かすことが出来ない。
此方に背を向けていた芥川先輩が異変に気づき「樋口、逃げろ!」と焦った声を出したがそれどころではなかった


「ぁ…」


上手く声も出せなくなっている私を嘲笑うかのように人の顔をした血は大きく口を開けてゆっくりと此方に迫ってくる。
ソレが今からしようとしていることは本能でわかる。ソレは私を飲み込むつもりなのだ。
逃げなければ…手に持っている銃で撃たなければ…
そう思うのに蛇に睨まれた蛙のように指一本でも動かすことが出来ない


「羅生門!」
「っ!?」


飲み込まれる直前に芥川先輩の羅生門がソレを突き破り喰らった。
死ななかったことと恐怖から解放されことにより思わずへたり込む
食い破られた血は形を失いボトボトと地面に降り注ぐ。降り注いでいる血の一滴が私の手の甲に落ちたその瞬間、凄まじい痛みが手の甲に訪れた


「い゛っ!?」


痛みの原因である血を素早く拭えば血に当たった場所が焼け爛れてしまっていた
一滴でこれなのだ、もし私が飲み込まれていたら…
そう考えた瞬間全身が粟立ったのを感じた。
これは奇術ではない。一体誰の能力なのか…これほどの恐ろしい能力を持つ人間は誰なのか…
ジクジクと痛む手の甲を擦りながら顔を上げれば、さっきまで巨大な人の顔を持つ血が居た場所を見ながら「こんなことが出来るのは…」とブツブツ呟く芥川先輩が立っている。
良かった芥川先輩は血に当たってなかったようだ
芥川先輩、と声を掛けようとした所でまたも異変に気付いた。
次は私ではなく芥川先輩だ。芥川先輩の後ろの方で何かが動いている。


「先輩!後ろ!!」
「!?」


ズルズルと何かを引き摺るような音を立てながら此方に向かってくる何か。
ソレの姿はすぐに顕わになった。
ソレは全身手足が隠れるぐらいの長さの真っ赤な服に身を包み顔面に小面の能面を張り付けた長身のモノだった。
モノ…そう呼ばざる得ないのは人か何か分からないからだ。
真っ赤な服からは血が滴り落ちている。
悪趣味極まりないモノはゆっくりと芥川先輩に近づいてくる。
先輩は先程と同じように羅生門で能面を喰らおうとしたが、それは失敗に終わってしまった。能面は羅生門を掴み引きちぎったのだ。


「羅生門が!!」
「くっ!」


先輩の能力が引きちぎられるなど見たことがなかった。
一歩一歩と近づいてくる能面に先輩は顔を青ざめ、能面が近づいてくる度に後退する。
先輩が押されているなんて…
何度も何度も羅生門で攻撃しても躱されるか掴まれ引きちぎられる


「いい加減姿を見せたらどうですか」
「うふふ♪」
「ぇ…?」


青ざめた顔で静かに能面に向かって先輩が言い放つ。するとその言葉を聞いた能面はいきなり動きを停止させ場違いな、その容姿に不釣り合いな可愛らしい声を発した


「敦君を虐めていい権利は君にないですよー」
「……お久しぶりです」


どういうことなのか、先輩はこの能面と面識があるのか。
しかも不気味な容姿の能面から可愛らしい女の声がすると余計不気味さが増した


「んー?どちら様でしたっけ?」


能面は微動だにしないが声だけは今この場を心底楽しんでいるかのようにケラケラと笑っている。


「そーんな苦虫潰したような顔しないでくださいなっ。もっと虐めたくなるじゃありませんか♪」
「…っ貴方は相変わらずですね」
「えーと……やっぱり思い出せないや。君誰です?」
「忘れたとは言わせない!!!」
「あははははっ。ウソウソちゃんと覚えてますよ」


先輩をからかい翻弄する能面は自らのお面を外した。すると力を失ったかのようにお面以外の真っ赤な部分がドロリと徐々に剥がれていき、最後は塵となって消えていった


「お久しぶりですね龍ちゃん」


そして現れたのは片手に能面を持ち歪んだ顔で笑っている探偵社に居た可愛らしい少女だった
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